今回ご紹介させて頂くT先輩は太氣拳歴十年であると同時に、某フルコンタクト空手の指導者でもあります。仕事、空手、太氣拳と非常に多忙な生活を送っておられるはずで、一体いつ寝ているのか不思議なほどです。
寡黙で真面目、実力者であるにも関わらず決して出過ぎることなく、愚痴どころかネガティヴなことを口にしたり、人についてあれこれ言及するのも見たことがない、人間的に非常に尊敬できる方です。
その推手や組手は質実剛健、間違っても一発を狙うことなく、ひたすら「状態を守る」ことを貫き、徹底的な粘り腰で詰将棋のように相手を追い詰めていきます。T先輩と推手をしていると、こちらが攻めた筈なのに、まったく打つ様子もなく先輩の手が顔の前に自動的に来ている、ということをしばしば経験させられます。
また聞き手は組手でお相手頂き、するすると切れ目なく間合いを詰められ、何もできないまま上から空き缶をペシャンと潰すように転がされたことがあり、まるで魔法のように感じました。
(本人希望により匿名でご紹介させて頂きます)
会員一問一答
――太気拳を初めてどのくらいになりますか。また、その前にやっていた運動あるいは武術がありますか。
太気を初めて10年になります。以前より空手をやっております。
――何故始めようと思ったんでしょうか、またきっかけは何ですか。
もともと興味がありましたし、空手の先輩が会友員だったので紹介してもらいました。
――その時に迷ったり、躊躇したりしましたか。
まったくありません。
――稽古に参加して最初に印象に残ったことはなんでしょうか。またなぜ印象に残ったのでしょうか。
立禅がこんなにきついとは思いませんでした。
立禅の真似事はしていましたが、せいぜい15分位程度でしたが、初めて基礎講座に参加させていただいて、一日中、立禅をしていたので。
――今までで記憶に残っていることはどんな事でしょうか。また一番印象的な出来事、面白かった事は?
初めての組手で会員№○○先輩の洗礼を受けた事。
今は退会してしまったKさんと、よく玉縄の稽古で真冬にも関わらず、大汗をかきながらずっと練りをやっていたこと。終盤は稽古の目的からだいぶずれて、お互いに相手が歩を止めるまでと勝負ごとになっていた。
――楽しいと思うときはどんな時でしょうか。
稽古で新しい発見(体の変化)があったとき。
――以前と変わったと思うのはどんな時ですか。逆に変わらないな、と思うのはどんな時ですか。
人の対人練習を見ていて以前の自分と変わった視点から見れるようになった。
兄弟弟子の皆さんの技術が、日進月歩なのに自分はあまり進歩していない気がする自分の思考が変わっていない。
――始める前と後で何か違った事がありますか。始めて良かったと思うのはどんな時ですか。
稽古に対する考え方、取り組み方が、違ってきました。
先生、兄弟弟子の皆さんと武術の話ができる時
――今課題と思ってるのはどんな事ですか。
稽古で形に囚われてしまうので、囚われ無いようにする。
――今はどんな気持ちで練習に向かい合っていますか。どんな自分になりたいですか。
今の自分のレベルで、一挙一動、丁寧に注意深く雑にならぬよう心がけています。
10年、20年後も、ずっと太気と向かい合っている自分で在りたい。
――武術以外の楽しみはどんなものですか。
バイクでツーリング。
ショートインタビュー
――T先輩は仕事、空手、太氣拳と、大変多忙でいらっしゃるかと思います。それらの間でのバランスや関係などをどう図っていらっしゃるのでしょうか。
まず、仕事と武道というのはまったく別ですよね。
空手と太氣拳は、最初は空手は空手、太氣拳は太氣拳、と分けて考えていました。でもそうすると、自分の身体の中に矛盾が出てくるんです。今は自分の中では、二つの区別はありません。
――体験を通じて、空手も変わったのでしょうか。
質が変わったと思います。
――T先輩は空手指導者としても活躍されているわけですが、太氣拳を教えるとしたら、どのように教えられますか。
自分は本当にセンスの欠片もない人間で、それが曲がりなりにも人前に出して恥ずかしくない程度には成長できたと思うので、そういう視点から教えられることはあると思います。
身体の使い方や姿勢など、まったく理解していませんでしたから、間違っていた、ということを知っているんです。そういうアプローチはできると思います。
――太氣の稽古をしていると、直近で悩んだり気になっていることがあっても、教わることもできないし質問することすらできない、ということがあります。コミュニケーションをとるのがとても難しいと思うのですが。
質問されてもなかなか答えられないですよね。
でも姿勢などで教えられることもありますから、そこから何かを感じ取ってもらえればいいかと。
――T先輩は個人的に特別にすごいな、と思っており、人間的にも一番尊敬できるのですが、その粘り強さはどのように養われたのでしょうか。
自分は稽古に対する姿勢はすごくねちっこいんですよ。それは核の部分で自分がすごく弱く、臆病だからです。人一倍強くなりたいんです。単に組手とかいうことではなく。
切り捨てて切り捨てていこうとするんですが、天野先生に指摘されて、全然できていないことを気づくことがあります。
――それは精神的なもの? 無駄な力を使わないということですか?
無駄なことをしない、そぎ落としていく、ということですが、精神的にもネガティヴなものを切り捨てていこうとしています。心の中にはドロドロのものがあるんですよ。
そういう自分の弱さと決別することです。