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天野敏のテクスト 閑話休題

最近の若いモンは

夜中に息子が居間のパソコンの前でヘッドセットをつけて何かぼそぼそ話している。インターネット電話という奴。深刻そうな感じなのでほって置いて寝た(電話代もタダだし)。翌朝その話をすると、

「うん、結構深刻だったんだよね。」
「何が深刻だったんだ。」
「友達が死の恐怖に取り付かれてね」
「病気かなんかにかかってるのか?」
「そうじゃなくて、自分が死んだ後の世界を考えると頭がおかしくなりそうだってさ。」

高2だったら当たり前に悩む内容だ。自分が生きていることに気がついて、今度は死ぬことに気がつく。
自分の死後も世界があるということに愕然とする。
人生の意味について考える。

私にも記憶がある。
ある日学校の校庭に立つ大きなヒマラヤ杉を見上げる。
風が吹き抜ける。
自分が生まれる前からこの樹は此処で生きていた、当たり前にそう感じた。
不意に、自分が死んでもこのヒマラヤ杉が変わらずにそびえ、風が吹き抜けていくんだ。
そう感じた瞬間に震えるように死に対する恐怖を感じた。
過去と現在と未来が一辺に自分の中に流れ込んできた訳だ。

今までは自分が世界だったのに、自分と世界が別にあると気がつく。
この頃に気がつかないと気がつくときが無い、それで悩む。
なんで自分がここにいるのか、死んだらどうなるのか、何のために生きるのか。

「そりゃ深刻だよな、実を言うとお父さんも、それをずっと考えていまだに答えが出ない」
「へえ、そうなんだ。」

どうも息子の返事は軽い。

「大変だな・・・。」
「うん、大変。なんか精神科に行こうかって言ってた」
「・・・???」

どうもよく判らない。精神科がなんでこういう問題に出てくる。
どうも話がここら辺から繋がらない。
人生の意味や自分の存在や死・時間・世界・宇宙、なんでそう言う問題に精神科の出番があるんだ。

「そう言う悩みは精神科の先生が治せるわけ?」
「どうだかね」

こういう患者が増えると精神科の先生も大変だ。

「お前、そう言うのは医者に行くより本を読めば少しは考え方の糸口ってのが見えることがあるんだぞ」
「そんなことが本に書いてあるの」
「当たり前だ、そう言うことが書いてあるのが本だ」
「どんな本」
「うん、一口には言えんけど、まあ、古典て言われてるヤツだな、大体は。むかし書かれて、今も残ってるやつは大概そうだ」

と、ここまで話して息子は話が長くなりそうだと判断したのか、自分の部屋に行った。
ここで「例えばどんな本」等と話を継げばどうなるのかを経験上知っているようだ。
しかし、精神科って言うのが出てくるのは、こういう悩みを本人は気の迷いだ、と感じてると言うことなのか。
人生最大の悩みだと思うんだが。
これを悩まないで、他に一体何を悩めって言うんだ、何を本気で考えろっていうんだ。
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おしえてください
私は時折苦しみについて考えます
誰もが等しく抱いた悲しみについて
生きる苦しみと
老いてゆく悲しみと
病いの苦しみと
死にゆく悲しみと
現在の自分と
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なんて歌を本気で歌ってるオジサンもいるくらいなのに・・・。

・・・最近の若いモンはよく判らん。