カテゴリー
会員・会友員のテクスト 富川リュウの太気拳修行記

平成23年・初夏の章

不思議な腰痛

4月17日の天野先生の還暦祝いの日以来、しばらくの間、不思議な腰痛に悩まされた。この不思議な腰痛は、その日の岸根でのAK吉さんとの組手の直後に、
尾骨の両脇あたりに違和感を感じたのが発端だった。左足にローキックを喰らい、左側頭部にハイキックを喰らったものの、組んで揉み合いになったり、
投げられることも無かったので、何故そうなったのかは不明である。それでも桜木町での飲み会と新横浜から広島への新幹線での移動後にも、
悪化することはなかったので、それほど気にはしていなかった。さらに、朝の立禅などの自主練や、ストレッチ等で脚部や腰部を引き伸ばす動作でも悪化することはなかった。

しかし月曜日から木曜日まで、ユーザー先の業者控室のパイプ椅子に座り続けていた為か、木曜日の夕方から急に痛み出した。
この日の帰りの電車の中では、座っているより立っている方が楽だったが、何か腰のあたりがムズムズして変な感じだった。
歩いている時には、ほとんど痛みは無い。しかし次の日の朝起きて、あまりの具合の悪さに仕事を休むことにした。尾骨の両脇
の違和感がMAXになっていて、ベッドに寝ている状態でも患部が疼いていた。

4/22(金)と4/23(土)は一日中寝ていた。普通の速さで歩く分には、ほとんど痛みを感じない位の軽度の腰痛にも関わらず、
そんなに昼も夜も爆睡し続けていられることが不思議でならなかった。日曜日にはやや回復してきたので、広島市内の東急
ハンズに行って、事務用のエアサス仕様の椅子を自腹で購入した。1万円なり。これでユーザー先の業者控え室でのデスクワークも楽になるはずだ。

飛車・角のライン

4月25日からの朝練では、天野先生に言われた「相手と当たる直前に半歩ずらすように」というアドバイスに従って、並足
の歩法から前足の着地で半歩ずらすバージョンと後ろ脚の寄せ足から半歩ずらすバージョンの2種類を繰り返し稽古した。

5月1日の稽古では、将棋の駒の例えを使いながら、組手の構えで「飛車のラインと角のラインを防ぎつつ攻める」という天
野先生からの新しい約束組手の提案があり、この稽古にしばらく時間を費やした後、自由組手に移った。自分はどうもそれに
固執しすぎていたようで、その約束組手をそのまま自由組手でもやろうとし、相手の手を意識しすぎて、顔から前に出ていく
ようなフォームになってしまっていたようだ。前回の会心の出来がウソのような、散々な不出来な組手の一日だった。16番
先輩からは「良い組手が出来たあとでも、その次の回にまた、悪い感じに戻ったりするもんなんだよね。だけどそれを繰り返
しながら上達していくんだから、大丈夫だよ」と慰められた。

王手、飛車・角

5月2日からの朝練では、胸を張って頭を後ろに充分に退げ、手を前に押し出すフォームの立禅と前腕の骨を中心とした旋回
方向の螺旋の意識を使って、相手を崩すようなイメージで稽古をした。

5月8日の稽古では、一度だけ半歩ずらす感じで打拳を出せたが、全体的にはあまり良い出来の組手ではなかった。しかしこ
の日の約束組手の中で、相手の空間への入り方のパターンに、A:槍で突いて行くイメージ、B:飛車・角を抑えていくイメ
ージ、C:歩で王手を取るイメージ、の3パターンあることを発見した。

強い後輩のふたり

5月9日からの朝練では、前述のA、B、Cのアプローチから、相手を制圧するというイメージで稽古をした。これに加え、
チカラの出し方に抑揚をつけ、体を緩めて前腕を相手に絡め、そこから相手を崩すように意識した。

5月15日の稽古では、全てが裏目に出て散々な組手だった。それに加え、後輩でありながら武歴が長く、組手センスの良い、
kitaGさんとAK吉さんの二人と当たり、けっこうボコボコにされてしまった。それでも組手の最中には「出入りのタイミング」
や「入る角度」などを盗み取ってやろうと必死になっていた。しかしそれが分からずじまいのまま、この日の組手稽古は終わって
しまう。あとになって考えてみると、どうも「出入りのタイミング」や「入る角度」などではなく、何かもっと「基本的で重要な
要素」が自分には欠落しているのではないかと思った。

ひとり反省会

「だまって座ればピタリと当る」これはよく言われる占いの常套文句であるが、毎朝、立禅で立っていると「だまって立つとむ
くむくヒラメク!」ということがよくある。

5月16日の朝練では、まずは昨日の反省点を頭の中でまとめてみた。
はじめに全てが裏目に出ていた点を整理してみる。

①前腕に意識を集中させる(誤)→(正)腰ハラの中心の意識をメインにして、腕は肩から肘までだけを考える。肘から先はオマケ(by M島先輩のアドバイス)

②チカラの出し方に抑揚をつける際に、緩んでいる状態をメインにする(誤)→
→(正)リキんでいるくらいの状態をメインに持ってきて、必要に応じて緩められるようにする。

③A、B、Cのアプローチから、相手を制圧するというイメージにとらわれすぎていて、受身で待ちの気持ちでいた(誤)→(正)自分から前に出ていく。

これらの反省点を踏まえたうえで、この日の朝練では、「腰ハラの中心の意識をメインにして、腕は肩から肘までだけを考える」
「リキんでいるくらいの状態をメインに持ってきて、必要に応じて緩められるようにする」「いつでも前に出ていくぞ!という
気持ちと体の状態(姿勢)を保つ」この3点を重視した。さらに、kitaGさんとAK吉さんの二人と当たり、この人たちにあって
自分にはないものは何かとずっと考えていたが、この「基本的で重要な要素」が見えてきた。これは、一言でいってしまうと、
3点目の「いつでも前に出ていくぞ!という気持ちと体の状態(姿勢)」ということになる。

パズルの最後のワンピース

この2年ほどの間、姿勢についての天野先生からの要求がどんどん厳しくなっていた。「尻を締める様に、つま先で立つ、
胸を張って、頭を後ろへ」等など…。そしてそれらにアプローチするうえで、例えば胸だけを張っても、組手では、返って
それまでよりも動きづらくなる、という経験もした。あくまで要求される全ての要素が整って、その姿勢が完成した時に、
いままでとは違う動きが出てくる、ということのようだ。

今回はそれほど苦労は無かった。ただ気づいただけだった。「尾骨を2~3cmほど前へ押し出す」これだけのことで、
禅も、這いも、探手も、大きく変わった。たぶんこれが自分の体にとって、パズルの最後のワンピースであったと同時に、
一番重要なエレメントだったのでなはいかと感じている。ちなみにネコ型ロボットのドラえもんも、シッポが電源スイッチ
になっていて、ここを押してやらないと、喋ったり、動いたり、ポケットから何かを出したりしないそうである。

尻の表情

5月21日と22日の土曜と日曜は、広島で過ごした。そして、尾骨を押し込んだ5月16日から2週間の間に色々なことが起きた。
練りで歩く時の寄せ足の感じが変わってきた。たぐり手では、それまでは差し込んで行く感じだったのが、腰を前へ押しつけていく
ような感じになった。揺りをすると、尻の柔らかみと硬みのグラデーションの表情を手のひらの動きに同調させられるようになってきた。
そしてこれにより、腰の六面力を手に伝え、UFOのように急に動いたり、止まったり、あるいはジグザグに動けるような感じが出てきた。

キョンシーの行進

5月29日は通常稽古ではなく、天野先生による月一の特別セミナーが行われた。午前中3時間、プラス午後の2時間という、
長くキツイ稽古であったが、その分大きな成果も得られた。細かい内容は省かせていただくが、立禅で要求される体幹部の状態
を強化するような地味な稽古だった。

例えば、二人一組になって、一人が正面の立禅で立っている所へ、もう一人が後ろからドンと押す。この時に押された方は、
半歩ほど前へ移動するが、この時にいかに態勢を保っていられるかという稽古があった。傍から見ていると、幽幻道士キョン
シーの行列としか言い様のない摩訶不思議な様子であったと思う。そもそもやっている本人たちですら、その稽古の意図が分かり兼ねるのだから…。

それでもしばらく繰り返すうちに、体の中に核となるような何かが定着していくのを感じていた。翌日には、右のふくらはぎ
に酷い筋肉痛があったが、それ以外にも腹筋の奥が張っている感じがあり、これにより体全体に天野先生が言うところの「板バネ感」が見えてきた感じがあった。

三段跳びでジャンプ!

5月30日からの朝練では、前述の板バネ感を意識して自主練に励んだ。三段跳びのジャンプの直前の感覚で禅の姿勢を作れるよう
になってくると、探手では、タコが獲物に覆いかぶさるような、相手を包みこんでしまうようなイメージが出てきた。

覚悟が足りないのか?

6月5日の組手には、良い結果を期待していた。5月29日の特別セミナーの最後に軽くM島先輩と約束組手をして良い感触を
得られていたし、6月5日の本番組手の直前にも何人かと約束組手をして良い感触があったからだ。

しかし格下の者と当る時には、スッキリとは行かないまでも、何とかそれなりにしのげる組手であったが、格上の先輩と当ると
からっきし駄目。すぐにあきらめて後ろを向いてしまう。天野先生からは「お前には、覚悟が足りないんだよ!」と叱責を喰らう。

その指摘は自分にとっては???であったが、この日の推手で大先輩のR田先輩に手合わせいただいて、良いヒントが見つかった。
それは「チカラの質」ということだった。

チカラの質

6月5日からの朝練では、この「チカラの質」ということについて工夫してみた。ねばっこさや、ねちっこさ、しつこい感じに
チカラの質を変えていく。そんな工夫をしてみた。これでけっこう組手でも行けるかな、と思っていたが、6月12日の組手で
もあまり良い成果は得られなかった。そしてまた、天野先生からは「お前には、覚悟が足りないんだよ!」と叱責された。

ハラを締める

6月13日からの朝練では「ハラを締める」ということについて工夫してみた。それまではハラ緩めたままだったので、
尻とハラを締めて、丹田をサンドイッチに挟むように工夫をしてみた。これでけっこう組手でも行けるかな、と思っていたが、
6月19日の組手でもあまり良い成果は得られなかった。そればかりでなく、怪我をして翌日には病院へ行くことになってしまった。

人間不信

もう誰の言うことも信じられない。誰からのアドバイスも受け付けない。そんな気分になっていた。人の言うとおりにして、上手く行ったためしがない。

良かった時のイメージに戻る。4月の3日と10日、17日あたりは結構いい感じで組手が出来ていた…。その時の状態にまで戻って考え直してみる。

しかしながら、あと一歩という点が、そもそもの思い違いなのかもしれない。その一歩で一気に組手開眼!というのは、
ただの思い上がりということだ。あと百歩必要なのかもしれないし、そもそものベース、土台、基礎、の部分が間違っているのかもしれない。

レンガで土台を積み上げたつもりでいても、それはただの思い違いで、ワラの土台だったのかもしれない。
「溺れる者はワラにもすがる」という諺があるが、かすめとってきたアドバイスや自分なりの工夫、それらは全部ただのワラで、
ただのワラをいくら集めても浮き具にはならず、ただただズブズブと沈んで溺れていくだけ…。そんなワラを集めるくらいなら、
犬かきだって、立ち泳ぎだって、バタ足だっていい。とにかく鼻と口を水面から出し、呼吸を確保し、溺れないようにすることが先決だ。

目の表情

6月25日と26日の土曜と日曜は、広島で過ごした。目のかすみもだいぶ治ってきている。新しいプランは出来ている。
新しい自主練での成果も感じている。しかし、今は書かないでおく…。果たしてこのトミリュウに「組手開眼の日」はやって来るのだろうか?!