結局、体幹部
人の身体は、末端部が器用に動き、中心部は不器用に出来ている。太気拳では、中心部の動きの延長として、手足が動くことが求められる。しかしながら不器用な中心部を意のままに動かすことは並大抵のことではない。それでも立禅や這い、練り等を繰り返し行うことで、脇腹や脇胸、腰ハラ、肩甲骨、アバラなどが少しずつ動くようになってくる。それでも、問題視しないことにはそこに目が行かず、問題として浮上させないことには、答えが出てきようもないことも事実だ。
当たり前のこと、当たり前に人として立っていること。あまりに当たり前すぎて、そこに問題があるとは気が付かない。否、指摘されたとしても気が付くことが出来ないから直すことも出来ない。そんな大問題が、体幹部の大きな部分に潜んでいる。それが骨盤の角度と頭の位置・首の状態。ここが整わないことには、何も始まらない。何も始まらないのに、気がつくのに時間がかかるので、最後の最後まで、課題となって残ってしまう。もし時間を巻き戻すことが出来るなら、ここを最初に直したのに…。そう思ってみても後の祭り。だけど、そう効率よく最短距離を進めないところが、人生の旨味なのかもしれない。
骨盤、効果絶大
前回の「秋の章」の最後に「11月1日はまた、天野先生から自分の立禅の姿勢を大きく直された日でもあった。骨盤をシャクル様にして、腹を引っ込めて、背中を楽に…。これでベルトラインがそれまでとは逆に、尻さがりとなる。しばらくは歯科矯正をやってるつもりでこの腰つきを身体に馴染ませていこうと思う」と書いた。
当時、その姿勢を獲得するには結構な時間が掛るのではないかと予想していた。実際、この件は、10年前の入門当初にすでに天野先生から指摘を受け、自分でもやろうとしていたのだが、尻さがりに骨盤を調整すると、頭部を著しく前に出してバランスを取るしかなかったため、腰が重くなって、腰痛を引き起こしてしまい、断念していた。
しかし今回は、次の日にはほぼ完成し、3日、一週間、二週間と、日増しに良い具合に姿勢が整ってきた。頭部を前に突き出すことなくバランスを取れたのは、10月25日の自主練で、右の脇胸が緩んでいたからだ。この脇胸の緩みを使って身体のバランスを整えてやると、そのままの高い位置に頭部を置いたまま、尻さがりの骨盤が実現出来たのだ。そして組手においても、11月8日、11月15日と、2週連続でなかなか良い成果を得られた。
空間、それは何?
骨盤の角度が良くなって、腕に抱える空間の感覚が出来てきた。しかしこれも天野先生のアドバイスによるものだ。前回の骨盤の角度にしても、今回の空間の指摘にしても、良く弟子の状況を見て、適切な時期に、的確なタイミングでアドバイスをくださる天野先生には頭が下がる。空間に関しても以前から何度か言われていて、自分なりにイメージしてみるのだが、骨盤の角度が間違っていては、そんなものが出来るはずもない。しかしながら、骨盤の角度が整ってしまえば自然に「そのように」なる。この感覚を言葉で表現するのは難しい。腕を少し大きめに拡げて羽根布団を抱える様にそっと包んでみると、ちょっと近いかなぁ~。けど似ているようでいて、全く違うとも言える。
仮説、心のシコリとアバラのシコリ
これは全くの仮説だが、気持ち的なシコリが、胸骨やアバラ、あるいは胸腺などにつまっていて、動きを悪くしているのではないだろうか。なぜならば、頭位置を調整するにあたり、また今回も胸骨のすぐ脇辺りが緩んでくれたから。
頭部、不参加問題
11月15日岸根での組手で、新たな問題が発覚した。骨盤の角度を直したことにより、もつれ合った際に、下を向くことは無くなったのだが、なんとヨコを向いてしまう。初めは、相手の丹田をモリで打ってウィンチで巻き上げることを忘れていたからかな、とも思ったが違っていた。
翌朝の自主練習で、禅を組んでいて気がついたのだが、空間を抑えることに頭部が参加していなかった。これは由々しき大問題である。「骨盤の角度を整えて、腰ハラを作り、両腕で包み、太ももで抑える様に空間をつくる」この作業に頭部は知らんぷり。なんと、不参加表明をしていたのだ。問題が発覚すれば、解答はすぐにでる。頭部も空間を抑える作業に「参加」させれば良いだけだ。しかしこれも「空間の感覚」が出来てきたから自然に「そのように」できる。それにしても、この感覚を言葉で表現するのは難しい。オデコの生え際で抑える様に、あるいはノドに何かを飲み込んでゴックンする感覚が、ちょっと近いかなぁ~。けど似ているようでいて、全く違うとも言える。
新しい体←の使い方
ここ数カ月の間、ジンクスといっていいほど、組手の出来が良い週と悪い週が交互に来るパターンが続いている。それならば、土日の両日ともに太気の稽古に参加するようにすれば、進化の度合いが2倍に加速するかな、などと欲張りなことを考えてしまう。
11月29日は、少し出来が良かった。頭部も参加させることで、組手の中で横を向いてしまうことが無くなっていた。それから一週間後、12月4日金曜日の稽古で、不思議なことが起きた。立禅を15分程していたところ、急に肩が下がって、首が伸びたのだ。肩首に関しては、もうすでに充分な状態であると思い込んでいたので、これは意外な変化だった。そしてこの日は組手は無かったが、推手で体の進化を感じられた。しかしながらこの2日後の12月6日の稽古では、組手の出来が悪かった。立禅において、喉→胸→腹→太ももの前側に一体感が出てきたことが面白く感じられて、この状態のまま組手に挑んでしまったので、動きは硬く、反応できない、変化できない、動けない、の三重苦であった。それでも気持ち的にはリラックスして組手に臨めたので、気持ちの面では多少なりとも、進歩したのかもしれない。
「新しい体の使い方」というと、今までの話の流れから、「新しい→体の使い方」という取られ方をされてしまうと思ったので、「新しい体←の使い方」と表記してみた。新しい体とは、骨盤の角度を尻さがりに調整した後の体のことであるが、前述のように、この体を使って良い効果が得られたこともあったが、使い慣れていないばっかりに、勘違いの方向へ行ってしまう場合もあった。12月6日の出来の悪い組手の教訓から、もっと体を緩めて、反応できる姿勢、変化できる状態、を保つ工夫が必要だと思った。幸いにも先輩のIさんから「お腹ブルブル立禅」と「鯉の滝登り効果」を教えていただいたので、これをベースに5日間の自主練ができた。
蛇足ながら、12月11日の金曜日は雨の為、朝の自主練が出来なかった。しかし不思議なことに、藤沢始発のオバQ線に座った途端、今までとは明らかに違って首が良く動くようになっている自分に気づいた。今までは動いていなかったある部分の関節が動き始めたような感覚だった。
嗚呼、交流会
5日間の自主練の中から、お腹の中に車輪が二つできて、これを交互に回しながら歩を進める感覚ができてきた。名づけて、機関車トーマス作戦! この作戦が功を奏し、12月13日の交流会では、そこそこ思い描いていた体を緩めて、反応できる姿勢、変化できる状態、を保つ組手ができたと思う。まあ、前回の組手の出来がNGだったので、ジンクス通りに出来の悪い週の次に、出来の良い週が来ただけかもしれないが…。
また、交流会参加が一年半ぶりとなるトミリュウには、島田先生や鹿志村先生からの貴重なアドバイスがありがたく、次への飛躍のステップの新しい課題をいただけた。もう課題満載で、お腹一杯の忘年会であった。