姿勢の作り方・その1
立禅の姿勢は常に進化し続ける。その切掛けは、組手の反省点からのフィードバックがほとんどだ。打ちに行こうとして上体が流れてしまう。組み付いたときに頭が下がってしまう。そうしないためにはどうすればよいか…。それを課題にして姿勢の作り方を工夫する。8月までの立禅のポイントは、ノドのイキミと丹田にあった。9月に入ると丹田で足腰を運び、ノドで頭頂部の突き上げ感を作り、この頭頂部で肘を押し下げる。そしてその押し下げた肘に身体を乗せる…。そんな感じで姿勢を作っていた。そして、これがまた10月に入ると変わってくる…。
ココロの弱さ
人の心の弱さには、どんなものがあるのだろうか。優柔不断だったり、怠け癖があったり、酒・女・金にだらしなかったり、ギャンブルや遊びの誘惑に弱かったり…。数えきれない程の種類の弱さが、人の数だけ存在する。
自分は身体は弱いが、心(意志)は強い方だと思っていたが、どうもこれは思い違いだったようである。いつも組手で天野先生から「おまえは打たれる前から、あっ打たれたらどうしよう、ダメだったらどうしよう、そんなことばっかり考えてるんだよな」と言われ続けている。どうもこれは、自分の会社での仕事ぶりについても同じことが言えるようだ。
4月からの7ヶ月間、工場の現場での常駐サポート業務を行っている。この工場には、自分の担当する装置40台が24時間稼働で動いている。これが故障した際の修理業務が主な仕事だ。一ヶ月の内の一週間が自分の担当で、3人交代で行っている。初めの内は、出来なかったらどうしよう。自分のわからない個所、苦手な個所が壊れたらどうしよう…。そんな不安だらけのスタートだった。
ひどく疲れてしまう経験を何度もして、その疲労の原因を探っていく内に、だんだんと自分の問題点に気づいてきた。
① 「うろたえる、動揺する、当惑する」そんな気持ちになるとエネルギーを消耗する。
② ああだったらどうしよう、こうだったらどうしようという「取り越し苦労的」思考パターンに陥るとエネルギーを消耗する。
③ 細かいことを気にしすぎて、糞真面目に何もかもキッチリとやろうとしすぎるとエネルギーを消耗する。
この三つが、この7ヶ月間で気付いた自分の心の弱さである。まだしばらくは、この仕事環境が続きそうなので、まだまだ気付いていない問題点が出てくるかもしれない。あるときから自分の考え方を変えてみた。自分の心の弱さを受け入れて、①②③を手放そうと…。そして組手も少しだけ良くなった。
マニュアル・セールスマン
新人のセールスマンで、マニュアルどおりに喋る奴がいるだろ。相手の気持ちや考えてること感じてること、あとは要望や好き嫌いなんかを全く無視してさ、研修で習った通りの説明を延々と喋り続ける奴。それってさ、心に響かないんだよな。聞いてても言葉が耳に入って来ないだろ。マニュアル通りの説明を延々と喋り続ける営業マン、そんな組手なんだよ、お前の今日の組手は…。
確かにおっしゃるとおりです。相手の様子を伺う心の余裕が全然ない。でも判りました。そうならないためにはどうすれば良いかを自分なりに工夫してみます。
二重螺旋の立禅
10月に入って、天野先生が自分の稽古の中から探し出した新発見を我々にもシェア―してくださった。空手の三戦(サンチン)立ちみたいに、踵に対してつま先を内側にして立つだろ、そして踵を寄せるトルクで膝を緩めて、尻を締めて、腹を緩めるように立禅してごらん。こうするとだな、静中の動、動中の静という感覚になるんだよ。
低い禅を置物のようになってやってると、どうしても足腰の筋力に負担が出てくる。静中の動、動中の静という感覚には至っていないが、自分では、二重螺旋が身体の中に感じられ、足腰の筋肉の負担が軽減されたように感じている。確かにこうすることでヒザが緩んで尻が締まる。これだけで十分って感じで、9月にやっていたノドと丹田はそれほど意識しなくても良い姿勢を作れるようになった。
ハッピーランチ
9月も10月も、一回おきに、組手の良い週と悪い週が繰り返されるというパターンが続いている。それでも悪いは悪いなりに新しい発見があるのでヨシとする。今まで気がつかなかった一瞬。今まで見ていなかった一瞬。そんな一瞬の出来事を経験することを繰り返し、積み重ねていって身体に染み付けていく。それが稽古の意味なのかもしれない。
10月18日、岸根での稽古の後、先輩のHさんと二人でランチを食べた。自分のその日の組手のできは悪く、Hさんもその日の組手では落ち込んでしまったとのこと。あれやこれやと話すうちに、自分とHさんは同じ問題を抱えていることに気が付いた。心の問題だ。そして上達の早い人は楽しんで組手をやってるよね、ということで意見が一致した。二人は組手に苦手意識をもっていて、なかなか楽しんで…という気分にはなれない。その為、どうしても緊張したり、固くなったりしてしまうようだ。
Hさんと別れて自分なりに考えた。取り越し苦労をしない。動揺しない。細かいことを気にせず、大まかな線で上手くいっていればそれで良しとする…。プラス、楽しんで…か。そう考えるとなるほどを合点がいく。
もう目の怪我をしなくなって1年以上が経つ。たまに腹部に蹴りをもらいダウンしてしまうものの、大きな怪我はしなくなった。ならば何を怖がっているか。結局、自分の心の弱さ。前述の①②③これだけだ。そして④楽しんで、これを課題として、自主練で禅・這い・練り・探手を組み立てていく。今までは探手や組手で「あっ、わっ、どひゃ、わーーー」となってしまっていた気分を「へぇ~、ほぅ~、なるほど、そんなのもアリかぁ」てな感じに、気分の転換を図る。相手からの情報を良く見取ったうえで、それに過剰に反応することなく、へぇ~と観察する自分とパッと反応する自分。どんな自分が創出されるのか未知との遭遇を楽しんでみよう!
ウィンチで巻き上げろ!
10月18日の岸根での稽古のあとにA先輩から組手に関しての貴重なアドバイスをいただいた。A先輩は組手の際に、自分の中心と相手の中心が繋がっているようにイメージしているという。それは紐かゴムでさ…という様な話だったが…。
その後の自主練習で自分なりのイメージが出来てきた。自分の丹田からモリを発射し、相手の丹田に打ち込む。モリにはワイヤーが付いていて、自分の腹にあるウィンチで巻き上げていく。魚釣りの要領だ。ウィンチで巻き上げながら近づいて行って、あとは左手に釣り糸、右手にはタモ網。そして魚が頭からタモ網に入ってくれればベストだが、まぁ横向きでも尾っぽからでも網に入ってくれればしめたもの。ただこの時に一気に行くのではなく、すこし緩めたり、なだめすかしたりしながら相手を観察しながら臨機応変に対応していく。そんなイメージで探手を組み立てた。
ふろしき包みの探手
10月19日からの自主練では、二重螺旋の立禅や楽しい気分の探手、そしてウィンチで巻き上げるイメージの探手を行っていた。24日、25日の土曜・日曜は、出張先での休暇。特にやることもないので、午前と午後、それぞれ1時間ずつの自主練とこの原稿の執筆をしていた。
8月の終わりころから、這いの時に自分の肩が前に被っていることが気になっていた。特に右の肩が良くなく、どうも肩の収まりもしっくりしない。立禅や半禅でも肩の具合、肘の位置、肘の開き方などなどの試行錯誤を繰り返していたが、なかなか良い感覚が得られずにいた。
10月25日の午前の自主練で、ふと右の脇胸が膨らむ感覚が出てきた。膨らむといっても前に膨らむのではなく、モモンガの飛膜のような吸い込む感覚だ。そして肩がしっくりと収まった。肘はそれまでより大きく広げる立禅となり、探手を行うと、相手をふろしきで包むような感覚や吸い込んでから動くような感覚がでてきた。ここまで書いて、今年の4月の出来事を思い出す。その時、気持ちに変化があって体が変わった。今回も同じことなのかもしれない。自分のコダワリ、ワダカマリを捨てることで、気を緩めることになり、これが体のある部分を緩めることになる。そういうことか、と思った。
経験と体験から学ぶ
「人は、自分自身が体験したことや経験したことをとおしてのみ、身に付く学びを得ることが出来る」と最近気がついた。本で読んだ知識や、人から聞いた話、その時は、なるほどなるほど、と分かったような気になるけれど、その知識だけでは日常生活に応用することはできない。仕事で辛かったり、組手で出来なかったり、悩んで苦しんで、経験して体験して、初めて実に成るものとなり、日常生活のいろんな場面にも対応できるスキルが身に付くのだと思う。
11月1日、岸根での久しぶりの組手。色々な検証ができた。
① 相手の丹田を自分の丹田から発射したモリで突く感覚は、なかなかGOOD! これは使えるって感じだ。ウィンチで巻き上げるのはまあまあで、タモ網は、どちらかというと自分の方が、相手のタモ網に入ってしまうことが多かった。
② 気持ちの問題はクリア。割と平静で居られた。しかし組手の際にはリラックスだけではダメなことが、この日の組手でハッキリと認識できた。次は、リラックスしながらも覚醒している感覚、集中力がありながらもリラックスしている感覚でやってみようと思った。
③ ふろしきで包む感覚と吸い込む感覚の組手は、裏目に出た。受けに回ってしまい、相手に押しこまれることが多く、自分の打拳もストレートが打てず、フック系だけになってしまい、相手を抱え込んでしまう展開がほとんどだった。しかし包む、吸い込む感覚が気持ちの余裕を作ってくれたので、次は肩口で吸いこむのではなく、丹田で吸い込むようにしてみようと思った。
組手の出来としては、40点くらいの出来の悪さだったが、次に繋がる良い発見がいっぱいあったので、この日は、とても良い組手稽古が出来た日だった。
姿勢の作り方・その2
自分は、出っ腹・出っ尻体形で、それが少しずつ解消されてきていると、しばしば報告してきたが、まだまだ完全には解消されていない。背中の下の方のそりがキツく、腹部が前にせり出している姿勢が自分の癖になっているので、普通に立つとヨコから見た時のズボンのベルトラインが、かなり尻あがりになっている。
11月1日はまた、天野先生から自分の立禅の姿勢を大きく直された日でもあった。骨盤をシャクル様にして、腹を引っ込めて、背中を楽に…。これでベルトラインがそれまでとは逆に、尻さがりとなる。しばらくは歯科矯正をやってるつもりでこの腰つきを身体に馴染ませていこうと思う。