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会員・会友員のテクスト 富川リュウの太気拳修行記

平成21年・夏の章(その1)

都合のよい解釈

「聞く耳をもたない」という表現がある。はなから人の話を聞こうとしない態度のことを指してこういう。天野先生からのアドバイスに対して、こういう態度をとる稽古生はいないと思うが、人にはどうも都合の悪いことにたいしては聞こえないふりをするという特性があるらしい。つまり、トライしてみようとする課題と、はなから取り組むことを放棄してしまう課題とがある。

実行してきたこと、常に心掛けていることの中には、私の場合、「気持ち良くやりなさい。楽にやりなさい。力を抜いて。楽しい気分で」などがあげられる。そして取り組みを放棄してきたことの中には「自分で工夫しなさい。短い時間でもいいから低い禅をやりなさい。腹に力を。尻を締めろ」などがある。

このように、自分にとって都合のよい方だけを選び、都合の悪い方は却下してしまうことが、自分の太気拳の進歩の妨げとなっていることに、最近気がついた。

守・破・離

自分の太気拳の進歩が人より遅いとは思わないが、もうちょっと早く、10年かかったけれども、もしかしたら(違う取り組み方をしていたなら)3年くらいでなんとかなっていたのでは、と思うことがある。天野先生は、頭の切り替えだという。物事の解釈の仕方、これが固定概念に囚われていると、新しい考え方を受け入れられないというのだ。

確かに自分もいくつも目からウロコを剥がしてきた。しかしながら本当の意味での頭の切り替えのために、10年という歳月が必要なのかもしれない。逆に言うと体を変えるには3年でそこそこの結果が得られるが、頭を変えるには10年以上かかるということか。

そしてもうひとつ問題となるのが、体のあり方と言葉による説明の間にある大きなギャップ。一見すると矛盾しているように思われるアドバイスが出てくるのは、このギャップのせいだ。天野先生からのアドバイスはどれも個性的だ。「とりあえず言う通りにやってみろ。言われた通りにやってるだけじゃダメだ。自分で工夫をしなさい。俺の体じゃないからわからないよ」等々。

しかしここへ来て、やっと自分の方もアドバイスの解釈の具合がわかるようになってきた。先生の言葉を自分の言葉に置き換えてみる。あるいは自分がテーマとしている課題にそれをあてはめてみる。そんな取り組み方ができるようになってきた。

Sweet Spot

5月16日の元住吉での稽古で、組手での位置取りの話になり、「ここに入っちゃえばいいんだよ。このポジションにいれば、自分はなんでもできて、相手はなんにもできないだろ」というアドバイスをいただいた。自分の両手が、相手の顔の中心と片側の肩に触れられるような30度くらいの角度を取った立ち位置、そこがSweet Spot となるらしい。

このポジションへ入る為の工夫と練習を一週間、毎朝おこなった。前蹴りから入って、蹴り足をセンターに置く方法と蹴り足を外にステップさせる方法の2種類を考え出し、相手が退がった場合には、蹴り足をセンターに置き歩を進め、相手がそのままの位置か前に出てきた場合には、蹴り足の着地点をサイドにステップさせる、という推測を立てた。また蹴りを使わない場合には、中心に打って行くぞという牽制をしながらSweet Spot を取るという練習もしてみた。

5月23日の組手ではこの取り組みの効果が出て、Sweet Spot に入ることで自分の組手を有利に運べる感触が得られた。しかしながら反省点としては、相手も動いているので、そこに居られるタイミングは一瞬しかないということ。また、中心を牽制して入っていくという発想はNGで、牽制の瞬間に自分の顔面が空き、あるいは相手に合わせられ易いらしく、このタイミングで打たれてしまうことが多かった。

そして次の一週間の工夫の中から出てきた回答は、その位置に入りながら打つ、打つと同時に入っている、ということ。この感覚で動くと相手に自分の顔面をさらすことなく、常に自分の片手が顔を守れるような位置にあることも発見できた。

5月31日の岸根での組手にて、この成果が得られた。またこの日の大発見は、考えずに感じてパッと打てたタイミングが3回ほどあったこと。思わず出た手が、正確に相手の顔面を捕えていた。これには、ビックリするやら嬉しいやら。俺って天才かも、と一瞬だけ思った。

一進一退

幸せは歩いてこないだぁから歩いて行くんだよ~♪ 一日一歩、三日で三歩、三歩あるいて二歩さがるぅ~♪。なんでせっかく三歩あるいたのに二歩さがっちゃうんだよ!と突っ込みを入れたくなる古い歌が思い出される。

6月度は出張の仕事が入ったり、元住の稽古に出たけどメンバーの都合で組手をやらなかったりで、結局6月28日にだけしか組手の稽古ができなかった。そしてこの日の自分の組手は散々。あまりの出来の悪さに落ち込んで、あぁ、俺ってやっぱり才能ないな…。もう辞めちゃおうかな…と、心が悲痛な叫びをあげ、自分の不甲斐なさに打ちひしがれた。
この一ヶ月間、何をしていたんだろうか。毎朝、朝練やって、出張先でも土日稽古して、色々と工夫をして、進化と変化を感じて…。でも、これが結果に繋がらないとは…。ワハハ本舗もびっくりのトホホ本舗だぁ――。

だんご虫の立禅

6月28日の稽古のあとにR田先輩とA野先輩からアドバイスをいただいた。腰を低く、腰腹をキメて、これだけを守っていれば組手はなんとかなる。そんな姿勢と守るべきポイントを教えていただいた。そして自分でも、疲れるからとか、辛いからと、後回しにしていた低い立禅に取り組んで、自分を追い込んで行くようにやってやろう!と心に決めた。

翌日からの朝練で、低い立禅を背中を少し丸める様にしてやってみた。イメージはだんご虫。はじめ、レスリング(アマレス)の構えのように上体をほぼ90度まで前傾させ、その腹の閉じ具合をそのままで、上体だけを起こしてみる。下腹部がキュッと締まった感じになり、A先輩に言われた内圧を高めておく感じが意識できた。

思うに、立禅の姿勢は時に自分の取り組み方によって変化する。まっすぐ→猫背→まっすぐ→だんご虫 とそんな感じだ。初めに良い姿勢と言われ、良い姿勢ならやっぱりキヲツケだな、と思い込み、そういう立禅をしていた。そしてある時期に天野先生から「スポーツ的な姿勢、サッカーのゴールキーパーや、バレーのレシーバー、そんなすぐに動けるフォームを」と言われ、それに取り組むも、しばらくやってみて効果が出ないと止めてしまった。そしてまた、胸の感覚が緩んだことが嬉しくて、胸を張った姿勢での立禅となる…。そんなことの繰り返しだ。今の時点ではだんご虫だが、また変わるかもしれない。だんご虫の立禅の姿勢が正しいのかどうか、それは組手をしてみて、白黒ハッキリけりをつけようじゃあないか!

アルマジロ・タックル

だんご虫の立禅に取り組む中で、探手をしながら相手の首に巻きつけた自分の腕の抜き方を考えて、アルマジロ・タックルを思いついた。抜いた腕のヒジと肩を使いショルダータックルのように相手に体当たりするという自分のオリジナル技だ。

7月12日の岸根での稽古。だんご虫の立禅の効果がでた。前回の6月28日に一方的に押しまくられやられてしまった後輩のK村さんに対して優位な組手ができた。しかし、アルマジロ・タックルはNG。頭が下がって一番良くない状態だと組手の最中に天野先生からダメ出しをくらう。それでも頭を下げないようにしてみただけで、下腹部の締まりが功を奏し、組み付かれても以前のように身体が浮かず、どっしりとしていて、逆に相手を抑え込むことができた。

この日の天野先生からの指摘は「頭が左右に揺れていて、視線が定まっていない」ということ。先生が言うには「気持ちの持ち方が違うんじゃないか」とのこと。しかし自分では??? 気持ち…ではないような気がした。

ノドにイキミを

最近、立禅で天野先生から言われることは、形ではなく管を閉じる様にということ。外に現れる形はいくらでも真似もできる。手の形はこう。肘の角度はこう。背中の丸め具合は…などなど。しかしいくら形が同じになっても、内容は、質は、同じにはならない。これはなかなか教えられるものではない。なぜならこれは感覚的なもので、一人一人感覚も受け取り方も様々であるから…。そういうことを前提にしつつも、いただいたアドバイスは、身体の体幹部、手足をもぎ取ってまだ残る生きるために必要な、食べる・飲む、そして排泄する。このミミズにもある基本的な生命維持機構である所のいっぽんの管(くだ)。ひとの身体の一番重要な生命維持システムである所のこの管をどう使うかという話である。

さて前置きが長くなったが、話は単純明快である。「喉は何かを飲み込む時のような感じ、あるいは欠伸(アクビ)を我慢するような感じ。そして下腹部は排泄を我慢するような感じ」話は簡単であるが、この「感じ」というところが曲者である。要は「それに似てはいるが、それそのもの、それとイコールでは無い」という点。このへんは自分で探すしかない。しかしながら自分の場合、前述のだんご虫の立禅に取り組む中で、下腹部のどの辺をどれ位、どのように力を入れておけばよいか、という点について、組手で良い実績を得られていたので、喉についてはイキミ方が足りないのではないかと考えた。

4連打での入り方

7月度に2度に分けて、4連打拳で相手の空間をつぶしながら入って行く方法を教わった。これはいわゆるワン・ツー・ストレート、フック、アッパー等のコンビネーションのようなものではなく、2歩進みながら4打のストレートを打っていくという、相手の間合いのつぶし方のひとつの参考例だとの説明であった。この稽古はなかなかスタミナを必要とする。4連打を3回ほど行うだけで、汗がドッと噴き出す。7月12日からの2週間、この稽古も朝練のメニューの中に取り込んでいた。

7月18日、元住での稽古では組手がなかった。その代わり4連打拳のやり方をまた違ったアプローチで教えていただいた。7月25日、この日も組手がなかった。次の土日は出張で稽古に参加に出来ないので、このまま不完全燃焼では2週間のあいだ中、ずっと悶々とした気分で過ごすことになると思い、疲れた体に鞭打って26日の岸根の稽古にも参加した。

組手の出来は上々。4連打拳の稽古の成果と喉のイキミの成果がでて、内容的には60%ほどの満足度だ。あとの40%は、例によってモクロミが勘違いだった取り組みと大きな忘れ物がひとつ。忘れ物は立ち位置の調整。手と喉に意識が集中しすぎていて、相手のSweet Spotに入ることをすっかり忘れていた。しかしながら気分も上々。おかげで次の2週間、良い気分で朝練に取り組めそうだ。

朝練のメニュー

岸根での組手を見ていて思ったことは、諸先輩の方々の組手スタイルの違い。もちろん背格好が違うということも考えられるが、3人が3人とも全く違う動き、あるいは三者三様に相手に対してのアプローチを仕方が違う。A先輩、I先輩、M島先輩、どれも参考になるが、どれも参考にならない。自分のスタイル、自分のやり方を構築せねば…と新たな決意が生まれる。

明日からの2週間(7/27-8/7)の朝練メニューを考えた。立禅では、天野先生に教わった二の腕のひねり方とA先輩のアドバイスのパックマン・スタイルを。揺りでは、A先輩に言われた触れた瞬間に緩むということと、I先輩に言われたヒジとヒザの繋がりを見つけ出すように。探手では、相手の顔の位置、手の位置、身体の動きを読んで、それに合わせて、そのちょうどよいタイミングを見つけ出して、自分が動いて的に合わせる。そして立ち位置の変更。この辺を意識して取り組んでいこうと思う。

7月31日から8月2日までの3日間、熱海で夏合宿が行われる。自分は、土日をはさんで一週間の出張があるので参加できないが、8月9日には、夏合宿で力をつけた全ての後輩、そして諸先輩の方々にも負けずとも劣らない、進化した富川リュウをお披露目できるはず(予定)です。