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会員・会友員のテクスト 富川リュウの太気拳修行記

平成20年 冬の章

消えた引き寄せ足

前回、秋の章(その2)の中で、ヒザを内側に寄せるように半禅の姿勢に工夫して、這いや練りが変わったことを「未来の軸足」というタイトルで記述した。これは10月の中旬のことであったが、11月の中旬にも同じようなことが起きた。

きっかけは何もなかった。ただ普通の朝の出勤前の稽古の中で、半禅に新しいアプローチを思いついた。それは、後ろ足側の尻を前足側に押し出すように、ということ。尻を少ししゃくって、正面側にではなく、斜め30度か45度の前足がある方向に押し込んでみる。これにより軸足は、後ろにあるんだけれども、もう前足に寄り添っているも同然という状態、そして腰から前に進んで行けるような体勢、が生まれてきた。

この感覚を保ったまま這いや練りを行うと、それまでとは全く体の繋がり方や動き方が変わってきた。特に練りの動作の中では、引き寄せ足が、まるで消えたように感じられた。それくらい滑らかに繋がって歩けるようになっていた。

そして前々回、秋の章(その1)の中で「AN打法」というタイトルで記述した項目があったが、引き寄せ足が消えたことにより、この「AN」は、打法というよりも、その構え、そして歩法にこそ一番の重要性が隠されているのではないか、という考えに至った。つまり重要なのは「AN構え」であり「AN歩法」なのではないか。

さえない組手

11月22日の元住の稽古でもそこそこの組手ができたのだが、翌々週の12月7日、岸根での稽古では全くさえのない組手だった。この二週間の毎朝の自主練の中では、AN構え/AN歩法の発見以外にも、幾つかの新発見があり、手応えを感じていたのだが、その成果が全く出なかった。全くさえない組手、あまりのセンスのなさに落ち込んで、再びもう辞めようか…という気分になった。

終わり際に、A先輩から「トミリュウは組手で相手に当たる時に姿勢が伸びちゃってるんだよな。その時に逆に縮んで相手に腰からぶつかって行くようにするんだよ」とアドバイスをいただいた。落ち込む気持ちの中に、とりあえず明日からはそれをやってみようと、模糊とした課題だけを持ち帰った日曜日だった。

耳の痛い話

この日の岸根での稽古の終わりに、天野先生がこんな話をされた。「組手とは何が起こるかわからないカオス的なもの、言うなれば出たとこ勝負。しかしこの混沌の中においても、これだけやっておけば大丈夫というものを掴む。そしてそれをペースにして臨機応変な対応をするという経験を積み重ねていく。この経験の積み重ねが、自分の組手に厚みをもたせる」そんな内容だった。

これは自分にとっては実に耳の痛い話だった。なぜならば、自分の会社での仕事ぶりが、まさにこれの真逆で、嫌なこと、面倒なことからは逃げてばかりいて、この年になっても積み上げてきたものが何も見当たらないからだ。やはり日常の立ち振る舞いが性格となり性質となり、その人となりが組手にも出てしまうということだろう。会社での仕事のやり方、心構え、そういったものを見直して、少なくとも人並みに仕事に取り組むようにしていかなければ、結局、人並みの組手もできるようにはならない。そんなことを思った。

ちょうど良いハラ具合

週明けの月曜日からの朝稽古で、A先輩のアドバイスに従って、腰からぶつかって行く感覚とあたる時に縮む感覚にトライしてみた。そして、すぐさま新たな発見があった。腰からぶつかって行くだけだと、少しのけぞってしまうし、縮むだけだと頭が下がってしまう。しかしこの両方をやろうとすると、不思議なことに下腹部の辺りにちょっとだけリキむに良いポイントが見つかったのだ。ハラは緩めるだけでもダメ、そしてリキむだけでもダメ。あるポイントだけを僅かにリキむ、そのちょうど良いハラ具合が見つかった。

そこそこ組手

12月8日からの3週間は仕事が忙しく、出張も多くあり、全く土日の稽古に参加できなかった。それでも旅先のビジネスホテル近くの公園で、毎朝20分から40分ほどの自主練を行っていた。そして12月28日の岸根での稽古に参加。下腹部に少し力を入れることの効果が出て、そこそこの組手ができた。しかしながらまだまだ未完。この日の天野先生の総括のお話は、日常生活の中で、信号待ちなどでも自分の体で遊んでみるようにとのこと。そこで立っているときの腰腹の具合や体のバランスなど、ブラジルのサッカー少年が日がな一日サッカーボールと戯れているように、自分の体と戯れてみてごらん、というような内容だった。

終わり際に、I先輩がHさんにアドバイスしているのを盗み聞きして次の組手のヒントを得た。I先輩によると「自分は相手の中心を捕らえても、相手には自分の中心を捕らえさせない姿勢と歩法がある」とのことで、それを実演されていた。また帰りの電車の中で、天野先生からは「組手では自分と相手との共通点を見つける」というお話を聞いた。「相手が何をしようとしているのかを踏まえたうえで、自分の次のアプローチを選択する」というような内容だった。

スルーさせる這い

12月27日土曜日からは年末年始の長期休暇に入っていた。11月、12月の忙しさもひと段落。ほっと一息といったところだ。年末の29,30,31は、自宅の大掃除などの合間をぬって、午後3時半くらいから近くの公園で自主練をした。

先日の「組手では自分と相手との共通点を見つける」という天野先生のアドバイスから、
・あなたには腕が2本、足が2本ある
・あなたは私の中心を打ち抜こうとしている
という二つの言葉が浮かんできた。

正面の立禅で、呪文のように繰り返す。「あなたには腕が2本、足が2本ある。あなたには腕が2本、足が2本ある。あなたには腕が2本、足が2本ある・・・」そして半禅でも、心の中で呟き続ける。「あなたは私の中心を打ち抜こうとしている。あなたは私の中心を打ち抜こうとしている。あなたは私の中心を打ち抜こうとしている・・・」ここで新たなひらめきが。相手の打拳を耳の脇に通り抜けさせれば…。

今までは自分の中心で相手の中心を抑えることに固執しすぎていて、逆にスーパーセーフの正面に面白いほど良く打拳をもらっていた。相手にしてみるとちょうど良いマトで、とても合わせやすかったのだろう。しかし、意識を切り替えて、それを耳脇に逸らしていくように半禅の中で工夫してみた。この意識で這いを行ってみると効果は歴然で、今までは顔の正面を相手にさらす時間が長すぎていたことに気付いた。

半禅で耳脇にスルーさせる。AN構えでも耳脇にスルーさせる。そして這いでも耳脇にスルーさせる。I先輩が言っていた「自分は相手の中心を捕らえても、相手には自分の中心を捕らえさせない姿勢と歩法」というのは、こんな感じかな、と思った。

八種の半禅・八種の構え

この章は、第九部・冬の章となっているが、これを書いている今、暦は2009年1月。もうすぐ、自分の太気拳修業も丸9年となる。思えば、長いようで短い9年間だった。過ぎてみると、あっという間に歳月が流れたかのように感じる。

1月4日、岸根での初稽古、スルーさせる這いの成果が出て、そこそこの組手ができた。そして、I先輩の組手のフォームから、次の組手のヒントを得た。I先輩のフォームは、AN構えだけにこだわらず、半禅構えも時折顔を出す。また、AN構えでは頭はこっち。半禅構えでは頭はこっち。ということはなく、両方あり!というところ。この辺を自分なりに整理すると、構えは左右とりまぜて8種類となる。

明日からの朝稽古で自分の中から何が出てくるのか、来週はどんな組手ができるのかがとても楽しみだ。そして今年はついに、自分の太気拳修業も10年目に突入!とりあえず人並みに仕事をこなして、人並みの組手ができるようになりたいものだ。