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会員・会友員のテクスト 富川リュウの太気拳修行記

平成20年・秋の章 その2

尻を締めろ!

6月7日、もう4ヶ月以上も前のことだが、立禅を組むトミリュウの傍らに現れた天野先生から「尻を締めろよ」とアドバイスを受けた。これは特に半禅では重要で、後ろ足側の尻を締め、腰を前に押し出すようにして、前へ移動していくことも可能とのことだった。しばらく数週間位だろうか、先生の言うとおりにやっていたが、あまり効果を感じなかったためか、アーカイブス入りしてしまった。それ以降、ほとんど尻を締めることはしなくなっていた。

ロング・トーン

7月20日、もう3ヶ月以上も前のことだが、立禅を組むトミリュウの傍らに現れた天野先生から息の吐き方についてのアドバイスを受けた。これはトロンボーンやトランペット、クラリネットやオーボェなどの管楽器の練習方法で、一定の音量・音程を保ったまま、んんん~と息が続く限り吹き続けるというものだ。これを立禅でやってみさいとのこと。ポイントは最後の息を吐き切るところ。息の全部を吐き切って、もうこれ以上でないと感じてから、さらにフンッ!と下腹部に落とすように吐き切る。しばらくの間、数週間位だろうか、先生の言うとおりにやっていたが、あまりその実用性を見出せないままに、アーカイブス入りしてしまった。それ以降、ほとんどロング・トーンの練習はしなくなっていた。

背中のショックアブソーバ

10月11日の推手で「背中が硬いぞ」と言われた。体全体がゴムまりのように立禅をしていたはずだが、時に、対人稽古となるとついつい力が入ってしまい、あるいは「良い姿勢、良い姿勢」と頭で考えている内に、間違った方向へ行きそうになる。膝だけではなく、常に背骨全体がショックアブソーバのようになっているように気をつけようと思った。

モモの盾

踵を押し出すような感覚を使ったTS打法を見つけたのが9月末、しかし、このTS打法では前ヒザが伸びてしまって次に続かないことを受けて、前足の踵を内に入れるのではなく、ヒザを内側に寄せるように半禅の姿勢を工夫してみた。これにより、大腿骨が自分の中心に来て、金的を守り、さらに前足側の下腹部が活きてくるという効果が得られた。この感覚を保ったまま這いや練りを行うと、それまでとはまるで体の繋がり方や動き方が変わってきた。

未来の軸足

10月18日の稽古で、この感覚を確認できた。対人稽古の推手で、前に歩み出して行くときに、今までは軸足の力に頼っていたのだが、モモの盾の半禅で前足側の下腹部が活きていきたことにより、差出し足の感覚が変わっていた。この差出し足には意図があり、重心がそちらへ自然に移って行くので、軸足だけの筋力に頼らずに相手を押しのけていくことが出来るようになった。これはまるで、差し出し足が未来の軸足であることの意思表示をしたかのようだった。

相手の歩幅につられるな

人間は、無意識のうちに相手の歩幅に合わせてしまうようにできているらしい。組手で、相手が大きく後方に一歩下がると、自分も何故か大きく一歩踏み込んでしまいたくなる。この傾向がわかったなら、後は、そうならないにはどうしたら良いか?という問いの解を探せばよいだけだ。①相手が大きく下がってもつられないように常に小さい歩幅で動く稽古を重ねる。②大きく一歩踏み込んでも、自分の姿勢が崩れないように工夫する。このどちらかしかない。

テレホンパンチの理由

組手では自分だけでなく、仲間の何人かが「引いてから打つなよ。そのままの位置から打つんだよ」と天野先生から言われていた。今までは、ただそうしないようにしようと気をつけていたのだが、ただ気をつけているだけでは、なかなか直らなかった。しかし相手の歩幅につられる傾向に気付いてから、テレホンパンチの理由がわかった。これは大きな歩幅で踏み込む時に、陸上競技の走者と同じで、腕を大きく後ろへ振る出したくなるためだ。この傾向がわかったなら、後は、そうならないにはどうしたら良いか?という問いの解を探せばよいだけだ。①常に小さい歩幅で動く稽古を重ねる。②引き手に頼らずに、大きく一歩踏み込めるように工夫する。このどちらかしかない。

反応できる姿勢、反応できる気持ち

10月23日の朝、目覚める一瞬前に気付いたことがある。反応して打つためには、いつでも反応できる状態にいること。反応できる姿勢、反応できる体、反応できる手、反応できる目付け、反応できる気持ち・・・。

腕を背中で支えない

ここのところ、出張が多い、出張先では工場での立ち仕事なので、足や背中に疲れがたまりやすい。10月25日、体があまりに疲れていたので、稽古をさぼってしまった。翌週からの朝の自主錬でも、まだ背中に張りが残っていた。この疲労は、もしかしたら仕事からのものだけではないかもしれない。たぶんこの朝錬も負担になっているのかも・・・。そう思った月曜日に、背中で腕を支えないように工夫してみた。腕はお腹の周りにある膨張感にのっかる感じで・・・。

尻を締める

次の日もまだ身体に疲労感がまとわり付いている。足と背中が張っている。ふと気付いた。お腹とお尻には疲労感がないではないか。そうだ!尻を締めるんだっけ。背中の力を抜くために、お腹とお尻ではさんでみた。はさんだ所に丹田ができた。しかし腹筋にはあまり力を入れないほうが良いようだ。腹筋を意識してしまうと、表面の腹筋だけを使うようになってしまう。尻だけを締め、少し斜め上に押し出すようにしてみる。ずいぶんと立禅が楽になった。特に半禅が楽になった。もう4ヶ月以上も前に天野先生が教えてくれたこと。今やっと、それが理解できた。

さえない組手

尻の締めにより、ずいぶんと楽に姿勢を保っていられるようになっていた。しかし11月2日の組手には全く冴えがなかった。三人ほどと組手を行い、いつもなら三人目くらいから調子が出てくるのだが、何かが足りない。全く冴えがない。歩幅は狭くしたし、片足で打つこともできるはずだ。背中も柔らかく使っていたし、反応できるように意識していたはずだ。しかし何かが足りない。何だ、何が足りないのだ。

組手の後の総括で、先生が皆に話をする。その日の話は呼吸について。呼法について教えたのだから、それを組手の中で活かせるように各自工夫しなさいとのこと。これだ!これが足りなかったのだ、今の自分には。

呼吸力ということ

さっそく次の日からの朝練で、呼法について真剣に取り組む。もう3ヶ月以上も前に天野先生が教えてくれたこと。今やっと、それに取り組もうとしている。俺は無駄なことなんか何にも教えていないよ。そう言った天野先生の言葉が思い出された。

まずはロング・トーンの練習。はじめは天野先生に教わったとおりに何度かやってみる。次第に自分なりに工夫して、ハミングのような音を出すようになった。以前は全く効果を感じなかったこの稽古が、今は確実な手応えを感じている。たぶん、尻の締めをキープしているようにしたためだと思う。最後にふんっ!と吐き切ってみる。この感じのままで這いを行う。初めは右で吐いて左で吸う。次第にずっと吐き続けていて、姿勢が変化するタイミングでだけ吸うようになった。そして練り、探手へ。探手では初め、吸うタイミングで変化して動いた。そして次第に変化の瞬間に吐き切るようになった。いちばん驚いたのは、これをやり始めてから、体の疲れ方が和らいだことだ。この週もユーザー先の工場で一週間立ち仕事だったが、それまでより背中や足の張りが軽減され、疲労感もそれほど感じなくなっていた。

そこそこ組手

11月15日、呼法の成果が出て、そこそこの組手ができた。天野先生からのアドバイスは視線が泳いでいるとのこと。来週までにこの辺を改善するように工夫してみようと思う。あとは秘伝(11/14発売)の記事の中の天野先生のエッセイにあった「殴りに行くのではなく、殴れる状況を作る」という話。それから日曜大工のたとえ話もとても参考になった。