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会員・会友員のテクスト 富川リュウの太気拳修行記

平成20年・秋の章 その1

AN打法

8月1日からの3日間、熱海で夏合宿が行われた。ここでは繰り返し、前へ出て行きながら、左右の打拳を連続して打ち出していく打法の稽古を行った。

とりあえず名前が無いと何かと不便なので、仮に「AN打法」と名づける。このAN打法、まず構え方に特徴がある。通常は、両手の平を相手に向け、その手を自分の顔の前あたりにおく。そして右足が後ろなら右手も後ろ、同じく左足が前なので左手が前となり、当然、右足と右手が前になる逆パターンも存在する。まあ簡単に言うと、半禅のまま構えているようなものだ。そしてAN打法の場合には、半禅での構えから左右の手の前後を入れ替える。右足が後ろのときに右手が前で、左足が前で左手が後ろとなる。そしてこの構えから前に歩き出しながら、左右交互に打っていく。右足が前の時に左手で打ち、左足が前の時に右手で打つ。

このAN打法、トミリュウは一人稽古の中では、まずまず上手くできた方だと思う。しかし組手では全く使えなかった。何故か?それは夏合宿の間中ずっと考えていたが、結局、答えは出ずじまいであった。

パルス打法

「ちょっとだけミゾオチの辺りを引っ込めてみて、胸がやっと生きてきた」と夏の章に書いた。夏合宿で聞いた話をヒントにちょっとした工夫を加えることで、アバラの状態が変化しはじめた。8月から9月にかけて、どんどんアバラがよく動くようになって、9月の末には、乳首の内側に、縦に20cmくらいのエリアのアバラのグラデーションが2列できた。両腕を縦に大きく回す練りをしてみると、このグラデーションが光の点滅を伴ってパルス信号を発しているように感じられた。次第に同時に回していた左右の腕の位相を少しづつずらし、左右交互に回すように。そして、それがブンブン回るようになってくると、フリッカージャブの連打ができあがる。パルス打法、またの名をぐるぐるメリーゴーランドという。しかしこの打法、組手では使えない。何故か?それは考えても答えが出そうになかったので、とりあえず保留扱いとなっている。

TS打法

9月21日の組手で、相手の顔を見ずに攻防を行っても、的確に自分の打拳が相手の顔面を捉えられる感覚が確認できた。第一司令塔と第二司令塔の目付けの成果が得られて嬉しかった。天野先生からのアドバイスはひとつだけ「相手の中心に打っていけるように工夫してみなさい。それだけやればいい」とのこと。またこの日は、這いをやっているときに「頭を傾け過ぎている」とのご指摘もいただいた。

朝練を繰り返す毎日の中で、次第に這いが変わっていった。この頃は足先を外へ向けるように工夫していたのだが、踵を押し出すようにしても同じ効果が得られることを発見した。そしてこれにより、這いでの足の着地の位置が、今までより縦に短い歩幅で、横にもかなり狭く、ほとんど中央を歩いているような足位置になっていった。

そんな中、ふとした弾みからTS打法が生まれた。「相手の中心に打っていく」それをイメージして探手をしていて、AN打法とは違うんだけれども、自分なりに自然な動きで前へ打って出られる打法ができた。これは、右足・右手が前にある体勢から、左足を左後ろにスライドさせ、瞬時に右足の踵を相手の中心にグッとスライドさせ踏み込み、左手で打ち込んでいくような体の使い方をする。えっ、TS打法って何の略かって?それはTommySpecialのTとS、それでTS打法なのです。

KS打法

9月27日は体があまりに疲れていたので、拳法の稽古をさぼってしまった。ここのところ、仕事が忙しく、まぁ年のせいもあるのだろうが疲労が抜けにくくなって来ている。10月5日、組手でTS打法が面白いほど良く当たった。しかし次に繋がらない。TSで打ち込んでいくと一発目はあたるのだが、体が伸びているため次の変化に時間が掛かり、格上の相手だと一発目を当てた後に、今度は自分の方がやりこめられてしまう。特にH田さんとの組手では、最終的に組み技になってしまい、投げられておしまい、ということが2度もあり、これは次への課題となった。

またこの日は、他のメンバーの組手を見ていて新しい発見があった。それはTS打法と似た動きをしたK村さん。その打拳は、AN打法の動きで間合いを詰めて行き、打つ時だけ前足をスライドさせるものだった。左右の手足が交互に出て行くので、左手と右足が前にある。そこから右足を右斜め前にスライドさせ、左手で相手の中心へ打ち込んでいくような体の使い方をする。えっ、KS打法って何の略かって?それはK村SpecialのKとS、それでKS打法なのです。

しかしこのKS打法、天野先生からはダメ出しをされた。「そこまで歩いて行ってるんだから、そのまま歩いて打って行けばいいじゃん」つまりは「足をスライドさせることはせずに、AN打法で打てよ」ということだ。しかしトミリュウは心の中で呟いた「それが難しいんだよね。K村さん、俺にはその難しさが良くわかるよ。でも何故出来ないのかが分からないんだよね…」と。

ところでこのAN打法、その名の由来は、AmanoNormal打法なのです。なぜなら「当たり前じゃん。当たり前に打ってるだけだよ俺は」といつも先生がおっしゃるから。あらら、先生には当たり前のことが、なぜ我々には出来ないのか…。謎は深まりばかりです。

歩幅を狭く

太気拳では相手ともつれた合った時に組んではいけないと言われている。体の大きな外国人や柔道やレスリングなどの組み技を専門にやっている人間は五万といるのだから、ここで組んで投げた、勝ったと言ってもお話にならないからだ。もちろん投げられてしまうのはもっと話にならないことは言うまでもない。そこで取り組んだことは、組手の中では、絶対にスタンスが広くならないように工夫してみた。狭いスタンスで安定して立つ。しっかり立つ。あるいは片足ででも立つ。それだけを意識して毎朝の朝練を繰り返していた。

そして10月11日の組手ではこの成果が得られた。前述のH田さんと当たり、もつれ合ってH田さんの方がすっ飛んでいってコケた。自分は特に技を掛けたわけではない。ただ狭いスタンスを守り続けていただけだった。この日は天野先生から戦略・戦術を考えるようにとのアドバイスをいただいた。確かに自分でも狭いスタンスの効果は出たが、打拳には冴えがなかったと感じていた。

片足で打つ

朝練を繰り返す毎日の中で、ちょっと冷静にAN打法に取り組んでみようと思った。TS打法は出来た。KS打法も真似しようとすると出来た。それでは何故、AN打法が出来ないのか? いったいTS・KSとANにはどんな違いがあるのか?TS・KSに在ってANに無いもの。あるいはTS・KSに無くてANに在るもの。それを考えると答えは一目瞭然だった。数式にあらわすとX=AN―(TS・KS)となる。そして、Xとは、引き寄せ足だった。

どの打法も前足が着地するタイミングで打っている。しかしAN打法の場合には、後ろ足を引き寄せてから前に足を着地させて打拳を打つ。そしてTS・KSにはこのタイムラグが無い。だから足を引き寄せている時間分だけ、手が出るのが遅くなる。AN打法を分解し、はじめは引き寄せ足をしてから打ってみる。着地と打拳が同時になる。しかしこれを繰り返すうちに、足を引き寄せると同時に、片足のままで打っても出来るんじゃないかということに気がついた。これはなにも必ず片足で打たなければいけないと言う意味ではない。前足が着地するタイミングでしか打てないよりは、片足でも打てることが分かれば、それだけで選択肢と可能性が拡がるというものだ。

しかし10月18日の組手では、このAN打法から発展させた片足打法は役に立たなかった。天野先生からのアドバイスは、ヒザを柔らかく使って、滑らかに繋げて動けるようにとのこと。このAN打法、まだまだ奥が深そうだ。そしてこの日の課題は「目線を泳がせるな」とのこと。これは推手でも組手でも言われた。第一司令塔と第二司令塔じゃあダメなのかなぁ~と思った。

目線と意識の分離

人として社会生活を営むうえで、自然と身につくコミュニケーション術というものがある。相手の目を見て話をしなさい。女性と気持ちを触れ合わせるためにはアイコンタクトが大事、などなど。これが得意かどうかは別にして、少なからず誰しもが無意識のうちにこういうことは行っている。しかし組手とは普通の状況とはかけ離れている。つまり普通にしていては、組手にはならない。そこで編み出したのが、第一司令塔と第二司令塔。以前より、天野先生は相手のノド元を見て組手をすると聞いていたので、たぶん先生のようなバランスの取れた人は、自分の中心で相手の中心に合わせていくのが当たり前にできて、トミリュウのようなバランスの悪い人間は、それがちょっとズレていて、だから自分の場合には右上なんじゃないのかな、と推察していた。

普通の場合には、「目線の先の一番近くのものに目の焦点が合い、そこに意識も集中する」という状況になる。それを立禅でボウッと遠く全体を見ながら何をするかというと、目の焦点は遠くの一点に合わせるのではなく、どこにも合っていないけど、動くものは全部見えているという状態を作る。その上で目線の合っていない間近にある木の表面に意識を集中させる。この目線と意識の集中を分離させたやりかたでそこそこの成果が得られていた。ならば相手のノド元を見るにはどうしたら良いか。これはなかなか難しい。しかし立禅では出来た。そして電車の中の向かいに座った人にもできた。だからと言って組手で出来るのか、それが問題である。

※次回予告

まだまだ書ききれなかった項目が目白押しなので「秋の章その2」を近日中にリリース予定です。ここに予定される目次をご紹介します。

第九部・秋の章その2(予定)
<背中のショックアブソーバ>
<モモの盾>
<未来の軸足>
<相手の歩幅につられるな>
<テレホンパンチの理由>
<反応できる姿勢、反応できる気持ち>
<腕を背中で支えない>
<気持ちで体を引っ張る>
<尻を締める>