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会員・会友員のテクスト 富川リュウの太気拳修行記

平成19年・秋なのだ

仮面ライダーになりたかった少年

 センスが無い。組手に対してのセンスが全くない。そもそもが格闘技や武道・武術、そういった男らしい強さに対しての体格や体質、性質や才能、そういったものには全く縁が無く、元来、自分には不向きなカテゴリーである。当然、プロレスやボクシング、空手の試合などにもほとんど興味が無く、男同士でプロレスごっこをしたり、ボクシングの真似ごと等をした記憶もない。なのに今でもそれを続けている。毎週毎週、ぶつかり稽古のような組手を繰り返している。何故か、何故やり続けているのか?自分でも良くわからない。

 最近は、日曜日でも7時くらいには目が覚めてしまう。朝食と片付けを済ませても、まだ8時代だ。ふと、普段はあまり見ないテレビをつけてみた。そこに仮面ライダーがいた。昔見た深みどり色の地味な仮面ライダーではなく、桃太郎のような極彩色とパステルカラーを身にまとった今風の仮面ライダーだ。仮面ライダーが闘っている。悪役のモンスターと闘ってる。ヒーロー達はいつも誰かのために闘っている。地球の平和を守るため、日本の町を守るため、家族や友人達を守るため…。そうか、僕は仮面ライダーになりたかったのか。ふと、そう思った。

伝説のミロンゲーロ

 アルゼンチンの共用語はスペイン語だ。しかし、ヨーロッパのスペインで使われているスペイン語とは少しだけ違っていて、アルゼンチンの地元の人達は、自分たちの言葉を「エスパニョール(スパニッシュ)」とは呼ばずに「カステジャーノ」と呼んでいる。

 僕は、スペイン語が苦手だ。同じ言葉でも男性名詞と女性名詞で違っているので、覚えるのが大変だからだ。大抵は、女性名詞は「a」で終わり、男性名詞は「o」で終わる。タンゴの愛好家達のことを女性の場合にはタンゲーラ、男性の場合はタンゲーロという。またミロンガで遊ぶ人達のことも同様にミロンゲーラ、ミロンゲーロ、と呼ぶ。

 ミロンガというのは、日本風にいうとダンスパーティーのようなもの。ただ少し違うのは、ちょっと飲み喰いもできて、多少酔っ払っててもオーケーということ。アルゼンチンの首都ブエノスには、ミロンガのお店がいっぱいある。中央には踊るためのスペースが大きく採ってあって、その周りにテーブルが並んでいる。ほとんどのお客はテーブルにつき、飲み物やピザなどの軽い食事を注文する。一人で来る人もいるし、ペアで来る人もいる。また、4、5人のグループで来る人達もいる。ミロンガの楽しみ方は人それぞれだ。美味しいアルゼンチンワインに酔って、音楽を聴いて、人の踊りを見ているだけの人。ずーとお喋りしている人、もちろん踊っている人達もいる。

 日本ではタンゴという文化が定着していないので、当然ミロンガのお店は経営が成り立たない。なのでミロンガは、公民館のホールなどを借りきって行なわれることが多い。あとは、タンゴの先生達がレッスンで使っているスタジオで、開催されるというパターンもある。

 ミロンゲーロを名乗るのは簡単だ。毎週毎週、ミロンガに通い詰めるだけで良い。別に踊りが上手くなくても平気、踊れなくても、踊らなくても平気。ミロンガに行っていれば、その人はミロンゲーロだ、ということになる。

幻の太気拳士

 太気拳士という肩書きは実に重い。僕は太気拳を8年続けている。でもまだ「太気拳士です」と名乗ることは出来ない。いつになったらそう名乗れるのか、想像もつかない。組手が強くなったらなのか? 10年経ったらなのか? あるいは太気拳愛好家として一生を終わるのか。見果てぬ夢の果て。そんなフレーズが思い浮かぶ。

とみりゅう・タンゴ・太気拳

 とみりゅう・タンゴ・太気拳、これは僕のライフワークだ。とみりゅう=文章を書くこと。タンゴ=タンゴを聴いて踊ること。太気拳=太気拳を続けていくこと。

 富川リュウのペンネームは自分でつけた。ちなみにタンゴネームはトミーという。富川の富の字から流用した。ミロンガには外国人も多く、日本語名では覚えてもらいにくいからだ。今や都内のミロンガで、トミーといえば知らない人はいない。ちょっとした有名人、伝説のミロンゲーロである、と自分では思っている。

 富川リュウのペンネームでこの修業記を書き始めて、もう7年になる。この修業記を書き始めて、文章を書く面白さを知った。この機会を与えてくださった天野先生には感謝の気持ちでいっぱいだ。また、こんな若輩者が、太気拳について書くことを容認してくれている諸先輩の方々にも感謝している。そしてもちろん、読んでくださっている皆様にも感謝している。

 初めの頃は、文章が重く、リズム感がない実につまらない書き方だったが、日が経つにつれ、面白みがあり、味のある良い文章を書くようになった。まさに、文才という才能が花開いた、といった感じだ、と自分で勝手に思っている。

太気とタンゴの類似性

 太気拳とタンゴには不思議な類似性がある。まず、やっていることの違いを明確にしておこう。太気拳に限らず、格闘技というものは多かれ少なかれ「自分のバランスを護ったままで、相手のバランスを崩す」という作業をおこなっている。これがダンスの場合、男女ペアで踊るダンスの場合に男性側がするべきことだが、「自分のバランスを保ったまま、相手のバランスも保ってあげる」という作業をおこなうことになる。また、違う言い方をすると「前者は相手の嫌がることを常に仕掛けていき、後者は常に相手を気持ちの良い状態に居させてあげる」ということもできる。

 では、類似点はどんなところなのか? まず身体の使い方が似ている。常にリキまずにいるということ。足は常に片足でいることを心掛け、移動の際には閉じてから閉じてからが基本である。次に、常に体を滑らかに使うということ、また、ある一定のまとまった状態で居続けるということ。この辺の部分は全く一緒だ。

 さて、組み手のセンスのない僕ですが、ダンスのセンスは良いようです。太気拳の自主練や対人稽古の中で気付いたことは、なかなか組手には成果が反映されないのですが、ダンスの動きはみるみるうちに良くなり、それまであまり上手く出来なかったヒーロなどの回転系の技などが、太気の稽古を通してある日突然出来るようになることが良くあるのです。

将来の夢

 僕はもうすぐ45歳になる。いつの間にやらすっかり只の中年オヤジになってしまった。いや、只の中年オヤジではない。非凡なる只者、只者でない凡人、と自分勝手に肩書きをつけてみた。

 僕には将来の夢がある。五十になったらこんな生き方をしてみたい、という夢だ。文章を書き、踊りを教え、毎日太気拳の稽古をする。そんな生活を夢見ている。会社勤めは辞めているので、これらの活動の中から何某かの収入を得ることも必要だ。

 本を書こうと思う。何かエッセイのようなものを。あるいは人に伝えたい人生の術を。ハッピハッピーな人生、幸せな人生には何が必要で、何が不必要なのかを。そしてタンゴの踊り方を教えよう。まずは立禅から始める。次に這いを教える。そして歩き、カミナンド。そう、太気拳の基本練習をそのままタンゴのレッスンメニューにしてしまう。必要最低限のことを優先順位を明確にして教えていく。やらなければいけないことと、やってはいけないことをはっきりと伝える。既存のレッスン体系ではミロンガデビューするまでに、女性で1年位、男性だと3年くらいは掛かってしまう。これをとりあえずの最低限の踊りが、女性は3ヶ月、男性は6ヶ月できるように成るように、メニューを組み立てようと考えている。

結果報告

 8月の合宿を終え、毎週土曜は稽古に参加し、9月になっても毎週土曜の稽古に参加し、天野先生から「今日の組み手は55点だな」と言ってもらえた。それまでは20点~30点あたりウロウロするばかりの永かった低迷期間をやっと抜け出せたようだ。

 8月から10月までの取り組みの中で、効果の無かったのは「キョンシースタイル、自分のリズムをつくる、第一の意識と第二の意識」。そして組手の上達に功を奏したのは「ふんばらずに打つ、収縮して打つ、内廻しの練り、相手のノド元を見る方法」等々である。

効果の無かった取り組み

 ①キョンシースタイル~両腕を長く真っ直ぐ相手のほうに伸ばして組手に臨んだ→ノドの部分が硬くなり頭が全く左右に動かせず、ボコボコにされた。

 ②自分のリズムを作る~自分の攻撃パターン、コンビネーションを工夫し、自分のリズムを作ってみた→相手が思うように動いてくれず、ボコボコにされる。終わってから天野先生からは「リズムではなく音」というアドバイスをいただいた。

 ③第一の意識と第二の意識~相手を周りの風景をボゥーと見てこれを第二の意識とし、一番手前に見えている自分の手に目の焦点は合わせないが意識をおき、これを第一の意識とする→相手の動きに反応できずにボコボコにされた。

功を奏した取り組み

 ①ふんばらずに打つ、収縮して打つ~これが出来るようになって前に出ながら連打することが可能となった。

 ②内廻しの練り~今までは「外廻しの練りは組手のシャドー」で「内廻しの練りは推手のシャドー」と理解していたが、内廻しを組手で使ってみたら、結構すんなりと上手くいった。

 ③相手のノド元を見る方法~普通に相手のノド元を見ようとすると頭が下がってしまう。頭をそのままで目だけ、視線だけを下げると眠いような目になり、祖手がボゥーを見えたり、二重に見えたりする。しかし、ある状態、ある姿勢、ある意識になると、視線が下向きでも相手と周囲のものがハッキリと見えるようになることを発見した。

 ④トコトコ歩きで足先を外へ向けるようにすることで、上体が無理なく自然に左右に振れるようになった。

天野敏の組手再入門

 9月末に都内某所のスタジオで、新しいビデオの撮影が行なわれました。朝9時半から夕方6時半までの約8時間(昼食タイムを除く)、天野先生は出ずっぱり喋りっぱなしの大変な収録でした。僕を含む弟子達7名は、組手もしましたが、それ以外での出番は少なく、待ち時間がほとんどという状態でした。それでもビデオ撮影という現場に立ち会えたことはとても有意義な時間でした。まる一日、レクチャーを受けていたという感もあるし、まる一日、天野先生の太気拳にかける情熱に触れさせてもらったという感もあります。本当にあまり体は動かしていないのですが、とても自分が上達したような気になりました。

 このビデオ・DVDは、今年の12月に「天野敏の組手再入門」というタイトルで発売される予定です。尚、登場した弟子達のなかでどの人が富川リュウなのかはすぐわかります。いちばんハンサムな人が僕ですから。えっ、そんな人見当たらないって?んー、美的センスは、人それぞれ違うからなぁ。