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会員・会友員のテクスト 富川リュウの太気拳修行記

平成16年・夏なのだ

夏でも立禅、公園で

 今年の夏は、また一段と暑い。家の奥さんに「このクソ暑いのによく公園でなんか練習ができるわねぇ」と半ば呆れ顔で言われる。そして「40才過ぎてるサラリーマンでそんなことやってる人って居ないわよ」なんて。「そうは言っても、野球やサッカーやテニスなんかやってる人達はいるんじゃあないのかなぁ」などと生返事をする。

 実は、私が太気拳をはじめようとしていた時の一番の心配事は、素手素面の組手ではなく、冬は寒くて、夏は暑い中で稽古しなければならないということであった。「ほんとに大丈夫かなぁ。ちゃんと続けられるんだろうか・・・」はじめの一年は戦々恐々であった。それでも一年二年と経つうちに、自然と気にしなくなっていた。

 そして今年も、この猛暑の中、やっぱり公園の木の下で禅を組み、這いに興じる。なんとも充実した至福のときだ。夏バテ・・・それは私にとっては、もう死語も同然。暑さ寒さを乗り越えて、もう「矢でも鉄砲でも、持って来やがれぇ~」ってな気分。――でも雨が降ったら稽古はお休みします・・・濡れるのイヤだから。

質的変換

 質的変換――って言っても、感じたことのない人には何のことやらさっぱり・・・でしょうね。長いこと立禅をやっていると、だんだんと自分のフォームが変化していく――と言った方が一般的には判り易いんだろうけど、実感としては、質的に変化したことの方が先に来て、フォームはその結果として変わったかなって、いうくらいなもの。まあ普通の人が見たら、質的変換前のフォームと変換後のフォームは、同じに見えちゃうかもしれないんですけどね。

 ここでひとつだけ補足しておくけど、質的変換って、一回あったらオッケー!ってもんではないですから。もちろん一年に2回あったから、あんたは偉い!ってもんでもないです。もし毎日、立禅やってるとしたなら、1日にひとつ、少なくても3日にひとつくらいは、新しいモノが見つかるでしょう。これが私が言う処の「質的変換」です。それを見つける前の自分と、見つけちゃった後の自分とは、もう同じ自分ではないんです。んーこの違い、わかるかなぁ~わかんねぇだろうなぁ~(これって70年代の古い流行語のフレーズなんです)

低い半禅

 昨年の暮れの頃からだったか、天野先生から、かなり低い姿勢での立禅を指導されていた。自分なりに工夫したつもりではあったのだが「逆だよそれじゃ!」と言われてしまった。何が逆なのかというと、骨盤の傾き方。半禅で姿勢を低くして行くと、それまで7:3だった荷重バランスが、9:1か10:0くらいになってくる。そしてこの時、軸足の負担はピークに達するのだが、軸足になっている方の骨盤が上がってる方がどうも楽だったのでそうしていた。正しくは逆。骨盤は軸足のある側にやや下がる。先生からは「はじめは時間は短くてもいいから、とにかくその姿勢でやるように」と言われていたんだけど、日に日にそれが当たり前になってきて、二ヶ月も経つ頃にはそれなりに長時間やっても平気になっていた。

浮きあがる前足

 そしてある時不思議なことが起きた。フッと前の足が浮いたのである!

 そもそも10:0くらいのバランスで立っているので、始めから前足は浮いているといば浮いているのだが、それがまるで反重力装置でも装着したかのようにふわっと浮き上がって・・・それで何?なんか役に立つの?って聞かれなくても答えちゃいますけど、蹴り!蹴りが出来出来なんです!軸足は充分に安定しているし、遊足は軽軽なんでパンパンっって、すんごく蹴れるようになっちゃって、嬉しくなっちゃいました!

テニスボールを踏みしめて

 10:0の半禅で軸足の感じが定まって、いい気分でいたんだけれど、天野先生からは前足の踵の使い方と前足側の腰骨周りに指摘を受けた。確かにそれまでは、10:0なので前足もその腰骨周りにも力も何も無く、言うなれば「虚」の状態になっていた。先生はそれを見抜いていて、そこに力を!と言いたかったに違いない。まずひとつは前足の踵でテニスボールをギュッと踏んでいて、その反発力で押し返されるような感じで・・・とのこと。そして腰骨周りは僅かな緊張を・・・。

秘伝中の秘伝・反重力装置オン!

 そんな半禅を組んでいると、ふとある推論が浮かんだ。10:0の半禅の前足踵にテニスボールを挟んでおくと、前足が浮き上がりそうになって、それを抑え付けているような感覚が出来てくる。そして抑え付けているんだけれど、浮き上がろうと反発してくる。そうするとこれは10:0ではなく、10:-2と言った感じになって、自分の体重がその分軽くなっちゃったような・・・。んーなんて嬉しいダイエット効果!ってそういうことじゃあない!

 つまり私の推論はこういうことである。仮に自分の体重が60kgだとしよう。半禅で10:0で立つようにすると、後ろ足には60kg掛かっている。しかし前足を前述のように引き上げるように使うと、それが12kg分、自分の体を浮き上がらせてくれる。ウソみたいだけど本当にそうなんだって!

それをやると軸足の負担が減るんだから!ここまでが自分で感じていること。そしてここからは推論なんだけど、もしその前足が-60kg分の浮力?を発生することが出来たなら、実質上、自分の体重はゼロってことになるじゃない!そうするともうこれはリニアモーターカー状態さ!ちょっとの力ですっ飛んでいくような速さが出ちゃうんじゃないでしょうか?

 そういえば佐藤聖二先生がこんなことを言ってたんです。「中国のある意拳の先生と立ち合いをした時に、膝を抜いて飛び出してくるから、どうにも対応しようのない速さがでてるんだよ」って。どうよ、富リュウの推論もあながち的外れでは無さそうでしょ。

調査依頼、半禅と這いとの取っ掛かりについて

 這いは禅の連続って言われてるけど、本当にそうなの?そんな疑問から、こんなことをやってみました・・・。荷重バランス10:0の半禅の姿勢から、次第に前足に荷重を移して行き、前足10で後ろ足0で、立ってみる。2、3日これを続けてると、んー、大腿骨→腸骨→仙骨→背骨といい感じに繋ながって、股関節→仙蝶関節がいい感じでハマッタぞ!!!

後ろ足もツッカエ棒?

 股関節→仙蝶関節がいい感じでハマッタのに気を良くして、半禅から前足方向へ後ろ足をツッカエ棒にして2、3歩進んでみる。そして向きを替えて(足を替えて)同じく2歩3歩・・・ん~なかなかいい感じにハマッテいる。今まであった腰のあたりの筋肉の負担感がまるで無くなっている。と、つかつかと歩み寄る怪しい影、天野先生の登場だ。「前の腰!そこをしっかりさせて!」・・・と言われるままに色々と工夫してみる・・・。先生も、ひねるんじゃなくて・・・とか、もっとこういう風に!とか色々と指導してくださる・・・。さてさて今度はどうなることやら、楽しみです。

推手、そして推手

 ここ2、3ヶ月で自分の推手は大きく変化した。やろうとしていたことは二つだけ。片足で立つ、そして前足に乗る。とにかく前に乗る。思いっきり乗る。充分に乗る。乗り切る。それに合わせて上体を真っ直ぐに落としていく、相手に寄りかかるのではなく、ソケイ部で吸い込んでちょっとだけ前傾させて。そして一歩を踏み出すときに次の一歩を腰で打つように前へ出て行く。考えていたことはこれだけ。それだけでずいぶん違う推手になってきた。

組手、やっぱり組手

 ここまでサクサクと軽快に動いていたキーボードを叩く指のスピードが、いきなり失速する。まるで牛の歩みだ。「組手」のことを書こうとするといつもそうだ。何故書きにくいのか・・・。

 ひとつには、その成果が目覚しいものではないということ。禅、這い、推手での稽古の手ごたえは、あるいは成果は、よく感じる。それに引き換え、組手ってやつはどうもよくわからない。もう少し時間が掛かるのかもしれないし、もっと回数をこなしたほうがよいのかもしれない。その時は「良く出来た」つもりでも、後からビデオを見ると全然だったり、その時に「あんまり良くないなあ」と思っても、人からは良かったよ、と言われることもたまにある。組手の最中は非日常的な精神状態にあって、何がどうなったのか、細かい事は覚えていない。相手にもらったダメージは体が覚えているのだが、相手を殴った記憶がほとんどない。でも組手が終わって「○○さんの蹴りが効きましたよ~」と話しかけると「富リュウさんの打拳を2、3発いいのもらっちゃいましたよ~」と言われ「えっ!」となる事もある。そういえば殴った私の手も痛い。もしかしたらこの非日常的な精神状態の中でも、冷静に何が起きているのかを覚えていられるようになることが、組手のスキルが、ある一定のレベルに達した事の目安なのかもしれない。

 ふたつめは、太気拳の組手が何をしようとしているのかが、わからないということ。殴る、蹴る、それをやっているのだが、どうも何かが違うようだ。新入りさんにはいい状態を保てても、各上の先輩には崩されっぱなし。はじめて1年2年の後輩でも、若くて元気のある奴には何発か貰ってしまうこともよくある。今年の夏の太氣会の合宿のテーマ、天野先生が示されたそれは「いかに殴らずに終わらせるか」ということであった。優先順位の一番目は、相手の突き蹴りを貰わないと言う事。それをかいくぐって相手の懐に入り込む。そしてこの時、入り込むと同時に相手を崩す。そして打てるなら打つし、相手がすっ転んでいれば、それまでだ。どうも既存の格闘技の経験やテレビ等の映像からの刷り込みで、突き蹴りを「当てる」ということを第一優先にしてしまいがちであるが、この辺からしてどうも違っているようだ。

 今日からの私の稽古のテーマ。その一つ目は、天野先生に言われたこと。「殴らないで終わらせる組手」をいかにして実現させるか。そして二つ目は、大関さんに言われたこと。「相手を良く見る」「相手の頭と肘、膝を常に自分の視界に捕らえておくこと」この二つに決定です!