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メールQ&A 天野敏のテクスト

太気拳における「空間」の意味とは何なのか

Q:
先生の『組手再入門』、興味深く読ませて頂きました。
いつもながら、実体験に基づく具体的でわかりやすい内容で、むさぼ るように 読んでしまいました。

その中で、「空間で蹴りを抑える」という写真があり(p 69)、この「空間」 というものについて、おうかがいしたく、メールさせて頂きました。

私は剣道を学んでいます。いつも先生のお話は、剣道書と共通する内容が多く、 しかも禅用語などの剣道書に多い難しい言葉が少ないので、ありがたく 拝読して おります。

『組手再入門』を読んで、地稽古の際に『空間』を意識してみまし た。竹刀を突きつけられると、なかなか平常心ではいられないのですが、相手の竹刀が自分 を打つ時には必ず通らねばならない空間があり、その空間を意識すると少し気持ちが楽になります。「ここに入ってきたものだけはじき出せば、打たれない」と いう感覚です。しかし、これは守りの感覚で、結局最後には打たれてし まいます。

太気拳における「空間」の意味とは何なのか。もう少し詳しくお教え頂けない でしょうか。よろしく、お願い致します。

福 岡 N

A:
質問から剣道への情熱や工夫が感じられます。本当に稽古で苦心しているものにしか分からない疑問だと思います。

空間に関することを言葉で表現するのは非常に厄介です。
しかし、文中に「相手の竹 刀が自分を打つ時には必ず通らねばならない空間があり・・・」とあります。
これを感じられているのなら話せそうな気がします。
この感覚は非常に大切で、これを稽古の中でN君が見つけたとしたら、その苦労は大変なことだと思います。

多くの人は、ただ守ろうとか、こうきたらこうとか漫然と相手を見がちです。しかし、相手が人間であり、自分と同じように手足がある以上、また手足の置き場所(構え)がある以上そこから始まり自分のところに攻撃が届くには無限の可能性があるように思えても、実際はそうではありません。

そこには通らなくてはならない道があります。
v つまり自分という陣地に相手が攻めてくるにはいくつかのルートを通らざるを得ない、だからその道を塞ぐことが大事だということになります。ちょっとしたこの発想が大きな違いに育ちます。
つまり相手の攻撃を防ぐというのではなく、その道筋を塞ぐということです。
攻撃を避けるということと、攻撃の道筋・ルートを潰すというのは一見すると同じように見えますが、内容は天地の差ほどの違いがあります。

大事なのは此処です。

此処が見えるか見えないかが分かれ目と言えるくらい大事なところです。そして此処からの工夫が更なる分かれ目ともなります。

「ここに入ってきたものだけはじき出せば、打たれない」とあるのは空間を守る感覚が芽生えてきているからですが、更に一歩進むためにもう一つ工夫してみてください。

それは「相手の空間を潰す」ということです。

相手の攻撃をはじき出した瞬間に相手の空間を潰すにはどうすれば良いか、です。僕の場合はその瞬間にほんの僅か、それが10センチかあるいは数センチ、ひょっとすると数ミリくらいかもしれませんが前に出ます。
その瞬間に相手とのあいだに新しい空間が立ち現れます。相手の攻撃を受けるのは身体のやることで、どう受けるかなんていうことは考える暇もないし必要もありません。身体が勝手に動くようにするには稽古するのみです。

だから心がけるのは、相手が此処に居ると思っている自分の場所からほんの僅かでも前に出ること。それによって相手の空間を奪い、同時に自分の新しい空間を作り出すこと。

昨年末に組み手のビデオを出しました。それを見てもらえると分かるかもしれませんが、僕が相手を打つ位置は非常に近いんです。つまり手を伸ばせば、相手の後頭部を打てるくらいの距離で打ちます。

組み手をすればお互いに手を出す距離や瞬間は見えてくるものです。殆どの人はそこしかないと思っています。だから同じところでどちらが速いとか、どちらが効いたとか言うところでやっています。その瞬間の奪い合いしかやりません。

そんなのはいくらやっても頭打ち。成功もあれば失敗もあるといったところです。

そうではなく、その瞬間に空間を奪うことが出来れば、正直言って相手を打つ必要もないくらいです。
もっともそこで打たないと打たれることもあります、だからしょうがないから打ちますが・・・(笑)。

空間というのは言ってみれば作業スペースです。お互いに離れていればそのスペースは確保できますが、接近すればするほどその奪い合いになります。接触した際の変化はその奪い合いです。
自分が相手を打った瞬間、あるいは相手の攻撃をはじいた瞬間、その瞬間にどう変化するかです。
その時に相手のスペースを奪い、同時に自分のスペースを確保できれば「自分は打てても打たれない」という実に都合の良い瞬間が生まれます。
打つのはそれからで十分間に合います。だから大事なのはその変化を研究することだと思います。

一番大事なのは距離や速さではなく、空間の感覚と瞬間の変化です。頑張って稽古してください。この文章が役に立つことを祈っています。

太気会 天野