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メールQ&A 天野敏のテクスト

立禅の精神面での効果

Q:
久しぶりにメール致します。
太気拳の扉』と先生のDVDを見ながら、立禅や這いを稽古しています。
成人してから剣道を始めたのですが、特に足捌きなどによい効果が出ているように感じています。一方、試合などになると途端に動きが固くなるのです。
立禅を中心とした稽古は、長く続ければ精神的な面での効果も期待できるのでしょうか。

福岡 N

A:
メール拝見しました。

剣道においての足捌きに良い効果が出ているとの事。
脚に神経が行き渡り、身体全体のまとまりが出てきているのでしょう。
これからも続けてください。

さて、精神的な面の効果と言うことですが、これも稽古では大事です。
正直に言って、人のやる事は全て気持ちがやらせるもの。
気持ちがうわずれば動きもうわずります。
そうなっては、対人練習で力を引き出せません。
稽古場では力を出せても、いざという時に持っているものが出てこないということになります。
これは弟子達の稽古を見ていても良くあります。
彼らを見ていて感じるのは、身体の問題と言うよりむしろ気持ちの問題を感じる事の方が多いくらいです。

では、気持ちの問題に対してどう対処するか。

と言うことですが、実は太気拳の稽古は最初からその問題に答えを用意しているような気がしてなりません。

それは立禅です。

立禅をどの様に組むか、です。
気持ちに関しては立禅を組んでいる時のような気分で人に対する、と言うことが大事です。
では、その時はどの様な気分か、と聞かれても説明できません。
ただ、どの様にして人と向かい合ってもそのストレスを乗り越えられるような気分を作るか、については話す事は出来ます。

立禅のときの注意点です。

大事な事は、遠くを見ますが見ることにとらわれずに五感を開く事です。
遠くを見てもそれに捉われずに、聞くこと、つまり遠くの音を聞くようにしたりします。

あるいは背後の気配に気を配る事も大事です。
そうする事で眼の前の事ではなく、全体に向かって気持ちを開くような感じになります。

その感じを失わずに人に向かいます。
立禅を組んでいると、何かボーっとした気持ちになります。
その気持ちこそが実はとても大事なのです。
その気分を事に及んでも失わない事です。

人と向かい合っても、立禅を組んでいる時の茫洋とした気分でいるようにすること。
それがとても大事な事です。
もちろん這いの時も同じ気分です。
簡単に出来る事ではありませんが、一人のときにそういった気分になる事が出来れば、人と向かい合っても出来るはずです。
緊張する場面でも自分を失わずにいること、これがどれだけ大事な事か判るのは自分を失ってしまった経験のある人だけです。

立禅を生かすという事があります。
稽古していると意識しなくても何となくそうなってくる、と言う事もあります。
しかし、それだけでは不十分です。
人と向かい合っても意識的に気分を立禅のときのようにもっていく事。
そう言う風にしてください。

ともすると気持ちや気分、あるいは精神的なことを忘れてからだの事にばかり気が行ってしまう人が多いようです。
その意味では、気持ちの面に眼が向くとの事。
とても大事な事に気がついたね、といった気がします。
武術はこれを乗り越えないと見えてきません。

僕がこう来たらこうするといった技術論が嫌いなのは、この気持ちの問題を無視しているからです。
この気持ちの問題こそが、武術をやっていて乗り超えなければいけない大きな壁だからです。
気持ちがあって初めて身体が動くものです。
太気拳をやっていて面白いな、と思うのは問題が出てくると初めて答えが稽古の中にある、と気がつくことです。
当たり前ですが、問題意識がなければ答えも出てきません。
これからは気持ちの問題も含めて、立禅や這いを剣道に生かしてください。

太気会 天野

いつもながらわかりやすいお答えを頂きまして、ありがとうございます。

剣道の書籍も何冊も読みましたが、禅の言葉など高尚なお話が多く、 逆に難しいものが多いように思われます。 しかし、先生のお話は、具体的で 言葉も簡単な表現なのでわかりやすいと感じます。虚飾がなく、実体験に基 づいたことだけだからなのでしょう。

足は、以前はぎこちなく動いて打った後ばたばたする感じでしたが、 立禅を中心とした稽古を取り入れるようになって 、2年くらいした頃、気が つくとスムーズに動けるようになり、足が軽く感じるようになっていました。

もう3年近く続けていますが、最近は、立禅の時に先生のぼーっとする 感じと周りの空気が少し重くなったような感じが する時があります。地稽古 (組手)の時にもそんな感じの時もあり、そんな時には考えるより先に打て ていた、という ことがあります。とても、気持ちのよい瞬間です。ただ、いつもとはいかず、また試合や審査となると足が何を踏んでいるにも かわからず、 気がつくと行ってはいけないところで、夢中で出て行って打たれるとなって しまいます。

先生のご助言を参考にして、立禅の状態をいろんな場所で保てること を稽古の目標にしたいと思います。これも剣道の 言葉でいえば、「平常心」 とか「剣道の日常化」という言葉で表されることになるのでしょうが、先生 のお話は具体的なので、目標と しても明確に設定できるのがすばらしいと思います。ありがとうございました。

福岡 N