Q:
初めまして、私は他武術の修行をしている者ですが、鍛錬や全身の協調を養うために立禅をやっております。天野先生の著書「太気拳の扉」を拝読していますが、質問が二つございます。
ひとつは、足裏で地面をつかむ感覚で立禅を15分ほどしていると、他の部位はなんともないのに足裏(特に土踏まず)が痛くなることです。これはやり方が間違っているのか、それとも単に鍛え方がたりないのでしょうか?
もうひとつは、先生の著書において「骨盤の左右の傾斜および交叉伸展反射」の際「右側の骨盤を引き上げるようにするが、足裏が地についているので左側の骨盤がさがり重心が右側に移る」とゆう部分です。この場合骨盤の下がった方に重心がいかないように、引き上げようとする方の筋肉を緊張させて重心を移すとゆう、やや強引な(?)方法をしていますが、正しいやり方なのでしょうか?無駄に力んでいるのではと疑問を持っております。
著書の読み込みが足りないのかもしれませんが、お答え頂ければ幸いです。
A:
メール拝見しました。
本を頼りの稽古は大変だと思います。
こういったメールを頂くと、正しく伝えるという事の難しさを痛感します。
先ず最初の土踏まずが痛くなるということ。
多分力の入れすぎだと思います。
地面を軽くつかむ感じで、強くつかむ必要はありません。
あるいはつかむ感覚が感じられるだけで十分です。
肝心なのは足の指の感覚、足首や膝そして股関節の感覚を目覚めさせる事が出来ればいいと思います。
そしてそれをどんな時でも持続させる事です。
さて、次の骨盤に関してです。
ですがその前に一言いっておきます。
質問文にあった正しい・正しくないというのは評価です。
必要なのは評価ではなく、自分が何かを感じ取ってそれを生かそうとすることです。
そう言う意味では、質問の方は感じているけれども活かしかたが分からない、と言うことでしょう。
その意味で言ってみれば正しい悩み方をしていると思います。
疑問に思う、という事が稽古するということです。
でももし僕が、それが正しい、といったらもう疑問を持たないでしょうか。
正しいと言われたけど、本当にそうだろうか、何で正しいんだろうか、と思わないでしょうか。
たぶん、疑問に思うでしょう。
つまり、正しい・正しくない、間違っている、間違っていない、の答えを永遠に求め続けるのが稽古というものかもしれません。
稽古するという事は様々な事を発見するという事ですが、発見するということが実は次の疑問の出発点になって行きます。
人に正しいといわれたから、そう疑問も持たずに稽古する。
多分、そんな人なら他の武術をやっていて、あえて立禅など組まないと思います。
さて、骨盤の件です。
大事なのは動く、つまり重心の転換をどんな力で行うのか、です。
ほとんどの人は脚で動くと思っていますが、それだけではありません。
勿論脚や腰の力も使いますが、同時に骨盤の傾斜する力を生かすことで力強い変化に通じていくのです。
骨盤が傾斜すれば自然に片方は引きあがり、逆は踏み込むようになります。
そんな当たり前のことを、当たり前に自分の動きにしていけばいいのです。
最初は意識的に、そしてそのうちに当たり前に骨盤の力を活かしながら動けるようになります。
骨盤を傾斜させる力は腹の力です。
それを感じていく事が大事。
その力を感じたら、それを生かして動く事を工夫すればいいわけです。
腹の力を使うと、上体の変化が引き出されます。
そこからまた発見があると思います。
これもまた、大事なのはその感覚を持続させる事です。
立禅は形ではなく、そこで得られた感覚を動いても動かなくても失わないでいることです。
そうすれば、その質は失われない訳です。
そしてその質をブラッシュ・アップするのが日々の稽古です。
ですから、本の内容どおりではなく、あるいは形を真似しようとしないで、自分のスタイルを作るように稽古してください。
本の内容はあくまで僕自身のものにすぎません。
真似しようとすると、強引な事もしてしまいがちです。
武術はあくまで自分自身の中にあります。
現れ方はそれぞれの形、違いがあって当然です。
自分の身体の中で起こっている事を伝える事は本当に難しい、そう思います。
これは質問している当人も同じだと思います。
いつも歯がゆいものを感じます。
そんな思いで、立禅に関してだけの映像とテキストを製作中です。
勿論、先々は他の内容にも触れていきたいと思いますが、とりあえずは立禅だけで一時間くらいの内容になるはずです。
それが出来上がったら、それも参考にしてもらえればと思います。
太気会 天野