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メールQ&A 天野敏のテクスト

日常生活の中での稽古

Q:
今回2度目のメールをさせていただきます。以前上下の力について質問させていただいきました。海外生活のため太氣拳の練習は一人でやっているので、ご返答はまさに千金に値する物でした。あれから少しずつですが先生の言われた事が身体で解ってきたのか、動く時にグンッと大きな力を感じるようになってきました。

さて、今回も一つ質問をさせていただきたいのですが、最近私は、乗り物を待つ時や何らかの事情で立ち続けなければならない時に、極力立禅の要領で立って少しでも時間を有効に使うようにしていますが、人中で立つ時には、膝をゆるめたり、特に腕を身体から離したりという事はなかなか出来ないのですが、”外見上の正しい立禅”が出来ない練習というのは逆に悪影響がありうるのでしょうか。

太氣拳の練習はほぼ毎日1時間位ずつやっているのですが、武術の姿勢は私生活にも活かすべき、あるいはどっちの姿勢も同じという事はよく耳にします。立禅で大事なのは外見でなく内面だとは思うのですが、ただ、そういった膝が伸びきったり、腕が体側に自然に垂れていたりした外見上練習の姿勢でない私生活の姿勢のせいで逆に影響を及ぼさないか、あるいは無意味でないか少し心配です。ひょっとしたら練習以外のときは、練習の結果として出てくる姿勢でいればいいのではないかと。

以前、他の方の質問で椅子に座った練習法が紹介されていましたが、もし街中で普通に直立して立っている時、あるいは歩く時など意識出来ることがあればアドバイスいただけますでしょうか。宜しくお願いします。

A:
本やビデオを参考にしての稽古はいろいろ大変だと思いますが、がんばってください。

さて、日常生活での生かし方、と言う事。
難しいですね、いや日常生活に生かす事が難しいのではなく、メールでの返事が難しい、と言う事です。
ただ、自分の経験からすると、もちろん通常の稽古でいろいろ発見する事も多いですが、実は電車の中だとか、あるいは唯立っている時だとか、そんなときに発見があったりした経験はそれこそ山ほどあります。
弟子たちと話していてもやはりそのようです。
電車のつり革につかまっている時に、腕の力の方向を見つけたり、それこそ上下の力の確認が出来たりと、様々のようです。

電車の中などでは、もちろん腕を前に出して、等は出来ません。
しかし、立禅と同じような感じでたつことは出来ます。
脚の指で軽く地面をつかむようにし、膝をそうとは見えない程度(ズボンのたるみvの範囲内)に曲げてみる。
これだけで、つり革に頼らなくても転ぶ気遣いは無くなります。
その上で、揺れた瞬間に頭で天井を押さえるようにしてみます。
そうするとますます安定してくるものです。
そんな時は腕を自然に下げ、わきの下にわずかに隙間を空ける程度でいいでしょう。

また歩くときですが、急いでいるときは出来ませんが、のんびり散歩、と言ったようなときは、それこそ雲の上で雲を踏みぬかないように歩いてみるのもいいでしょう。
膝を軟らかくし、骨盤を意識できるようになると思います。
骨盤を意識できるようになると、次にいわゆる腹の動きが見えてきます。
日常生活でも出来る事はたくさんあるものです。
いろいろ工夫してみてください。

それから、「外見上の正しい立禅」と言う言葉がありましたが、注意点はもちろん形に関してになります。
しかし、目的は形を作るためにあるのではなく、身体の内部のまとまりを作るためのものですから立禅の形が作れないときは、それはそれで気にしないでやっていいと思います。
また、内面と言う言葉がありましたが、まず大事な事は自分の身体と向かい合うこと。

そしてその上で、自分の周りの環境にも注意を向けていられるような状態を作る事です。

自分の中にこもりきらず、また逆にまわりに引きずられる事もない、と言った事でしょうか。
実は立禅のこんな感覚は、組み手などの時の感覚とまったく同じです。
相手に惑わされず、自分を見失わない。
ここら辺が太気拳の非常に具体的なところです。
立禅がなにやら抽象的な精神養成ではなく、そのまま組み手などの時の心の持ち方を教えてくれるわけです。

海外での生活、様々なストレスもあると思います。
太気拳が何かの役に立っていると思うと嬉しい気がします。

太気会 天野