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メールQ&A 天野敏のテクスト

座った状態での稽古

Q:
ご無沙汰しております。会友員のDです。(中略)自分は膝の靭帯を断裂してしまってしまい、満足な稽古が出来ない状態ですが、座った状態で出来る稽古法について何かアドバイスしていただければ幸いです。座った状態で上半身は立禅の形ををし、立った状態をイメージしながらやるようにしています。膝を安静にしながらも、今後につながる稽古法を探し出したいと思っております。
お忙しいところ申し訳ありませんが御指導の程宜しくお願い致します。

A:
座っての練習のやり方は、いくらでもあります。ここでは的を幾つかに絞って書きます。
まず、課題の選定です。
  1)骨盤の傾斜による力を明確にする。
  2)背骨の力を感じ取り、上下の力に転換する。
とりあえず、この2点に焦点を合わせて書きたいと思います。

「骨盤の傾斜による力を明確にする」ために
まず、椅子は固めのものにします。長く座っていると、お尻が痛くなるようなやつです。学校の椅子を思い出せばいいと思います。あまり深く腰掛けず、上体は立禅の形を守ります。左右のお尻の骨が椅子に押し付けられるのが感じられると思います。その圧力が左右均等になっているのを確認してから、ゆっくり、右側の骨盤を引き上げるようにします。上体は、ゆっくりと右に傾きます。ある程度傾いたら、今度は、逆に左に骨盤を引き上げるようにします。左右の傾きが逆になります。
この左右の切り替えを最初はゆっくりと、そして慣れてきたら、時に急激に行います。ゆっくりと切り替えているときは、椅子はぎしぎしとなり、急激に切り替えたときは、がたんと大きな音がするような感じです。このとき、腰の筋肉と上体(特にわき腹)の緊張が感じられると思います。この感じを十分に味わってください。この左右の切り替えが、まるで両脇の壁に肩がぶつかり、跳ね返るように感じられればいいと思います。
この感覚は、立っているより、座っているほうが見つけやすいと思います。この力は、そのまま素早い歩法の変化や発力を生み出します。
太氣拳では、一番基礎になる力です。

「背骨の力を感じ取り、上下の力に転換する」ために
腰のかけ方は、上記と同様にする。上体も同じ。ただ、少し背骨を緩め加減にする。若干猫背と行ったら言いすぎですが。その状態で、頭の上に重いものが載っているとイメージする。背骨を伸ばすようにして、頭上の重いものを持ち上げる。ゆっくりと持ち上げ、ゆっくりと下ろす。
これに慣れたら、今度はゆっくりと下ろし、急激に持ち上げるようにする。急激な変化のために、頭上のものは持ち上がる閑がなく、背骨の伸張する力は、座っている椅子にぶつかり、椅子を下にたたきつける。
また、今度はゆっくりと持ち上げ、急激に引き落とす。頭上のものは、落ちる閑がなく、逆に、引き落とす力で椅子から腰が引き剥がされるようになる。
これは、組み手などの際の上下の変化の原動力であると共に、瞬間的な質量の変化を利用した発力を生み出す源のひとつです。

膝が治ったら、上記の練習を、両足で地面をしっかりと掴んでやってください。きっと両方が一緒に出てくると思います。

膝をいためての練習は、肉体的なものだけでなく、精神的にもイライラすることと思います。しかし、ここで書いたことは、却って、座っているほうが感じやすいかもしれません。拳で大切なことは、部分に頼らないことです。故障した時こそ、今まで見えなかった事が見えてきて、全体が繋がるかもしれません。

頑張ってください。

太氣会 天野