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天野敏のテクスト 閑話休題

太気拳ノート―1

前後の力、六面力、或いは静的な力について。

立禅を何故組むのか、と言う疑問については答えは幾通りにもある。
簡単に言えば、立禅から色々なものを引き出すことが出来るからだが、その中でも大事なものの 一つに静的な力を引き出す、或いは感じ取ると言う事が上げられる。
静的な力は、意拳的に言えば六面力であり、上下前後左右に力を感じると言う事だ。
六面に力を得る、と言うことは自分の周囲360度と重力に抗する力を得る事であるが、 上下の力が大元にあり、その変化形として前後左右の力があると考えた方がわかりやすい。

静的な力と言うのは動こうとする力ではなく「動くまい 動かされまい」とする力だ。
そういう意味では受動的なところから引き出される力と言える。
これを感じ取るには、立禅を組んでいる最中に前から胸を軽く押してもらう。或いは後ろから押してもらう。 また左右から軽く押してもらう。
それらを間断なく前後左右を入れ替えながらそれらの力に抗する方法を探る事から見つけることが出来る。
力を入れ替える時間は徐々に短くしていく事で、前から押されても、押し返すだけでなく後ろも押さえ、 左から押されても右を押さえる、といったように同時に前後左右に力を得る事が出来るようになる。

柔道などの組み技系の経験者なら誰でも知っていることだが、組んだ瞬間に相手の重さを感じる。 これが言ってみれば六面力に近い。引いても引けず、押しても押せずと言う感じだ。そこに居る強さ、 とでも言えば良いかもしれない。あるいは動かされない存在感、とでも言うか。技術以前のそのヒトのあり方だ。 だから表題に書いたように「静的な力」と言うわけだ。

具体的なイメージで言えば、前後に関しては立ち幅跳びで前に飛び出そうとした瞬間の力感が一番近い 感じがする。或いは後ろに飛ぼうとした感じでもよい。両足が前後に揃っている場合、引き出される力は 第一に身体全体が前後に震動するような力で、これは幅跳びの時の身体の運用を考えれば想像に難くない。

左右に関しては、親指を中心にした足首の外旋する力が水平方向の力の基本になる。それに加えて、 身体全体が上に伸び上がろうとする力が突き当たって下に向かう感じだ。

どちらにしても、常に前後左右上下に抵抗感・圧力感を感じるところから始まる。

この力がもっとも基本になり、動く稽古は、その抵抗感や圧力感をを失わずに動く事が課題となる。
 その意味で、静的な力を感じ取れないところでの動的な稽古は、何のことは無い、ただの運動になるということだ。