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天野敏のテクスト 閑話休題

月刊「秘伝」の連載内容について

月刊「秘伝」に連載中の内容を変更、組手中心の内容にすることにしました。急に変更することにしたので、担当の編集者には 申し訳ないことになりました(ご迷惑をおかけします)。しかし、どうしても書いておかなくては、という気になったのです。 雑誌にも書きましたが、きっかけはある試合。防具つきで顔面あり、というルール。組手の際の危険防止のために防具をつけたり、 あるいは寸止めにすると言うのは納得できます。武術の稽古をして強くなろう、と言うのに強くなる前に怪我をしてしまっては元も 子もないからです。うち(太気会)でも時にはヘッドギアーをつけたりもする。でも、見ていると安全のための防具があるから、 その防具に頼った組手になっている。防具をつけているから顔を殴られても大丈夫、だから顔面ノーガード。寸止めで顔面の心配が ないからやっぱり顔面ノーガード。その結果見ていると顔面にパンチが入る、入る。いくら防具をつけているからと言って、まあ、 あんなに殴られたら首が壊れる、と他人事ながら心配になってしまいます。当たるのは当たり前で、全員が顔面がら空き。 またルールで顔面なしの組手になると今度は自分に顔があるのを忘れたような様相になってしまう。もちろんこちらも顔面がら空き。 要はルールが決まるとルールに沿った稽古になり、試合になる。それだけのこと、と言ってしまっては元も子もないけれど 、感じたのはそこから見えてくる指導の有様。たぶん武術の指導と言いながら、教えているのは型と打ち方やよけ方の形。型をやって、 正拳突きやいろいろなパターンの稽古をして移動をやって、後の組手はそれぞれのやりたい様にやりなさい、と言う指導なんだろうなと思う。 だけどそれは「武術」を教えてるんではなく、「技術」を教えてるだけだと思う。組手が即実戦的というわけではないけれど、それでも 避けて通れないのは当たり前。だからこそ組手でどんなことに注意して、何をするべきなのかを教えなければ行けないはず。なのにその 一番大事なことを教えていない。あるいは知らない人間が指導している。一番大事なこととは、別にどう打つとかどう受けるなんていう ことではないと思う。そんなことよりもっと基本的なこと。組手でやらなければいけない事とやってはいけない事。それをまずはっきり とした上で組手をやらせないと、いくら痛い思いをしても一向に強くなれない。強くなるのは元々身体能力の高いものだけ、と言うこと になってしまう。連載の最初にも書いておいたけれど、一例を挙げれば、構えのこと。どんな試合を見てもみんなどういう訳か顔面がら空き。 お互いに顔面がら空きで、お互いに顔面を狙っているのだからお互い様と言えばお互い様。みんな痛い思いをしているはずなのにそこに何の 工夫も無いようだ。少しは顔を守る工夫をしたら、と思うんだけど。(まあ、自分の顔が大事じゃない人は良いけれど)では、どうすれば いいかと言えば簡単、手を顔の前に持ってくれば良いだけ。たったそれだけの事で顔面が守れるのにそれすら工夫しない。だからみんな顔面に パンチが入る。当たり前。空いているから入る。空いてなければ入らない。コレも当たり前だと思うんだけど。打つことは出来ても守れない。 守る事が出来ずに打つ稽古ばかりと言うのでは、まるでもぐらたたきと同じ、もぐらたたきの叩き合い。お互いに的をさらしての叩きあいです。 武術と言うものは戦いに勝つための術であるけれど、戦うのは自分を守るためのはず。守る必要がなければ戦う必要もないはず。それなのに その自分を守る、自己保存と言う一番の基本を忘れて、攻める事ばかりやるのは本末転倒もはなはだしいと思うね。それでは自分自身が消耗品に なってしまう。武術は使い捨ての兵士を育てるためのものではないはず。と、まあ、気張っている訳ではないけれど、思った。そこで考えてみたら、 こう来たらこう打つとか言う技術的なことに関してはいろんな本にも書いてあるけれど、実際の組手のやり方、について書いてあるものがない。 経験で覚えなさい、と言うことなのだろう。でも、どうも先に書いた顔面のように、経験しても覚えないようなので、自分の経験と沢井先生に 注意された事を合わせて書いておこうと言うわけです。組手の関していろんな人がいろんなことを言ってますが、なかには本当に無茶なことを 言っているのもあります。あるいは無茶なことが常識になっているのもあります。そういった事を、違うのは違う、ダメはダメと言っていこう と思います。先程武術は戦いに勝つための技術と書いたけれど、組手は技術ではなくて、言って見れば「芸」。人と向かい合っての即興芸とも 言えるかもしれない。そう考えると前述した大会で見たのは「芸」の無い組手ということになる。で、これからの連載は「芸談」と言うことに なるのかもしれません。
この「閑話休題」、ほんとは太気拳や武術と関係ない事をいろいろ書いていこうと思ったのですが、やはり最初はこんな内容になってしまいました。 次からは脱武術で行こうと思っていますが、さて、太気拳しか取り柄がないのに、ほんとに書けるかな、とも思っています。